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四部55話 いじわるおにいさんは追放されましたとさ

「は……おい、フリーダ?」


自分を愛すると言ってくれた女に叩きつけられた絶縁状の言葉が信じられずバリィは手を伸ばそうとする。


「来ないで。言ったでしょう。私は強い男が好きなの。弱い男は嫌いよ。とはいっても犯罪者の片棒を担いだから私もこの国ではお尋ね者ね。ま、元々そうなんだけど」

「そうか……テメエ、【灰色の魔女】か!」


ハニキヌが何かに気づいたようにフリーダに向かって叫ぶ。


「そ。よく気づいたわね。化粧で結構化けたつもりなのに。まあ、楽しめたわ。この国でも、じゃあね。バリィ……元気でね。さようなら」

「ま、待て! フリーダ」

「弱いものはいらないの。『私の国』には。じゃあね」


フリーダが出口へと駆け出す。

しかし、その行く手をキルキルとミキルが阻む。


「行かせない!」

「ふふ……あなたたちはまだよ。もっともっと強くなったら誘ってあげる」


キルキルとミキルの連撃をゆらりと躱しながらフリーダは逃げていく。


「「待て!」」

「お前ら! いい!」

「しかし!」


ハニキヌが追おうとするキルキルを制す。


「あいつ、こんなもんを置いていきやがった。見逃す交換条件のつもりか……この国の、賊共のアジトの場所が書かれた地図だ。相変わらずわけのわからねえ女だ」


ハニキヌは苦虫をかみつぶしたような顔で投げつけられた紙の束を睨む。

バリィは売られた賊共に自身を重ね、滝のような汗を流し、声を荒げる。


「エーテキング! お前が囮に!」

「なるわけなかろう。今の儂の主は、このカイン様じゃ。お主ではない。お主のような阿呆の真似をさせられて傷ついたぞ」


サルーンはまるで人間のような感情豊かな口調でバリィをこき下ろす。


「があああああ! おい! 奴隷! お前は……」


バリィが隷属使役の指輪を掲げ、振り返る。

眉間に皺を寄せて叫んだバリィの顔が呆気に取られている。


「もう、従いません。あなたに従う理由がありませんから」


火傷顔の魔工技師は隷属の首輪で絞められてついた痕を擦りながらバリィを睨みつける。

そして、その周りには、捉えたはずの調査隊とその護衛がずらりと並びこちらを見ている。


「うまく、やってくれて、ありがとう。ハウンド」

「国からのご依頼だ。お礼はたんまり頼むぜ」


ハウンドは指で隷属の首輪をくるくる回しながらにやりと笑う。


「な……なん、で外せる!?」

「あ~、そりゃあ、こういう系の魔導具は黒犬ウチの専売特許みたいなところがあるからよ。にしても、亀の嬢ちゃんの読みは当たってたな。あの魔導具コンテストの騒ぎもこいつらが噛んでたわけだ。此処での騒ぎを気づかれないように」

「カイーンヌ! このラッタが、いち早く! 彼らを見つけたのだ! 頭撫でられをしたいだろうさせてやろう!」


ラッタがハウンドの足元から飛び出し、カインの足に頭を擦り付ける。


「あのたすの英雄よ、調査隊を代表して感謝する」


調査隊のリーダーらしき白髪の男が深々とカインに頭を下げる。

カインはラッタの頭を指で撫でようとする手を止め、恐縮したように負けじと深々と頭を下げた。


「なん、だよ……! なんだよ! なんなんだよ! どういうことだよぉおお!」

「バリィ、お前の、負けだよ。サルーン、レイルの街の様子は映せる?」

「ふむ……おお、一体壊れずにある鉄人形がおりますな。魔力のほとんどを失っているようですが、一時繋ぐ程度であればできるかと」


サルーンがそういうと、宙に画を映す。

それは、大合唱をしながら勝利に沸くレイルの人々の姿だった。

近くには亀人族の女の子の後ろ姿が見える。


「声は?」

「繋いでおります」

「タルト」

『ほぎゃああ!? って、今の声カインさん?』

「主、あちらにも画を映しましょうか?」

「お願い」

『ほぎゃ! か、か、かい……!』

『カインさん! 無事だったのね!』

『ほぎゃー!』


タルトが泣き出しそうなところにシアが割り込んでくる。


「うん、もう、大丈夫」

『そう……これで、あの子も報われますね』

「おい、勝手に殺すな、白クソ姫」

『……え? 今の言い方、カインさん、その、鉄人形……』

「ココル、だよ。核だけ鉄人形に移したらしい」

「ふふふ、白クソ、残念でしたね、私が一番カイン様のおや、く、に……」


ココルが声に詰まる。シアが泣いていたのだ。


「なによっ……! 生きてるなら生きてるって教えなさい、よっ……! ばか!」

「カイン様……」

「シアも嬉しいって、ココルが生きてて……」

「そう、ですか……そうですか……ふーん」


カインはココルを見遣ると照れたようにぼそぼそと呟く。

今までよりどこか感情があるように見えるその姿にカインは小さく首を傾げる。


「くっそがぁあああ! どいつもこいつも死ねぇええええ!」


バリィが狂ったように叫ぶが、誰もが冷めた目で彼を見つめる。


「バリィ、お前の、自慢は、数字ステータス、だった、ね」


バリィはカインを見る。

そこには、カインの周りを囲む大陸に名をとどろかせる実力者たち。

そして、数えきれないほど多くの人々がカインの後ろからこちらを見ている。


「俺の自慢は、この画に映りきらない、俺が助けた、そして、俺を助けてくれる人たちの数だ」


バリィは1人だった。


「う、あ、あ、あ、あああああああああ! あああああああ!」


1人ぼっちのオール1のバリィは殴りかかることも出来ず、ただただ泣き続けた。


けれど、手を差し伸べるものは誰もいなかった。


「バリィ……今の自分の、様を見ろ」


カインの言葉で俯くバリィの目線の先には、計測球に『1』と一緒に映ったみすぼらしい男の姿があった。


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