◆
季節は巡り、新学期を迎えた。
春斗と美香は3年生になり、奇跡的に同じクラスになった。
「今年もよろしくね、坂登君」
桜の花びらが舞う中、美香が笑顔で言う。
春斗は相変わらず素っ気ない態度を取りながらも、内心では安堵していた。
──また一緒のクラスか……まあ、悪くない
一年前、逆張りの権化として転校してきた春斗。
今では「ツンデレ」として、クラスメイトたちに認識されていた。
本人は断固として認めないが。
「おーい、坂登! 今年もよろしくな!」
クラスメイトたちが気軽に声をかけてくる。
春斗は露骨に嫌そうな顔をして軽く会釈する。
ここでガツンとキッツイ事を言ってやりたい気持ちがむらりと湧くが、それはちょっと逆張りクオリティが低いなと判断しての事だ。
「相変わらずだなあ」
皆、春斗の態度に慣れきっていた。
そんな様子を見て、春斗は内心で悶えていた。
──くそ、なんでこんなことに……
居心地が悪いことこの上なかった。
吐き気を催す同調圧力のただなかにいるのだ。
だが、美香といる時だけは違った。
彼女の前では、素直になれないながらも、少しずつ本音が漏れるようになっていた。
「坂登君、進路どうするの?」
ある日の放課後、いつもの図書室で美香が聞いてきた。
「……大学」
「やっぱり。どこ志望?」
春斗は少し躊躇してから答えた。
「東京の……まあ、それなりのところ」
実は、かなりの難関大学を狙っていた。
でも、それを素直に言うのは癪に触る。
もう素直になれない言動が魂にしみ込んでしまっているのだ。
「そっか。私も頑張らないと」
「佐伯さんは?」
「私も東京の大学目指してる。坂登君と……」
美香は言いかけて、顔を赤らめた。
「同じ大学に行けたらいいなって」
春斗の心臓が跳ねた。
──同じ大学……それって……
でも、そんな感情を表に出すわけにはいかない。
春斗は咳払いをして誤魔化した。
「別に。好きにすれば」
「うん、頑張る!」
美香の笑顔が、眩しかった。
夏が近づくにつれ、二人の距離は少しずつ縮まっていった。
一緒に勉強する時間が増え、時には他愛ない話もするようになった。
春斗は相変わらず素っ気ない態度を崩さなかったが、美香はそんな春斗の本質を理解していた。
「坂登君って、本当は寂しがり屋だよね」
「は? 何言ってんの」
「だって、いつも一人でいるくせに、私が話しかけると嬉しそうだもん」
「嬉しそうって……見間違いだろ」
春斗は否定するが、美香は微笑むだけだった。
──バレてる……
春斗は内心で冷や汗をかいた。
こんなに自分の感情を見透かされたのは初めてだった。