◆
夏休みが明けて、2学期が始まった。
春斗と美香の関係は、表面上は変わらないように見えた。
相変わらず一緒に勉強し、他愛ない会話を交わす。
だが何かが違っていた。
美香は時折言いたいことがあるような素振りを見せては、結局何も言わない。
春斗も春斗で、自分の感情を持て余していた。
──このままじゃダメだ
春斗は分かっていた。
美香への想いは、もはや否定できないレベルまで膨らんでいる。
でも──
──断られたらどうする
今まで人間関係で怯えたことなんてなかった。
むしろ孤立することを選んできた。
なのに美香のこととなると臆病になってしまう。
一方、美香も同じような葛藤を抱えていた。
──坂登君に、私の気持ちを伝えたい。でも……
春斗の素っ気ない態度。
それが照れ隠しだということは分かっている。
でも、もし本当に自分のことを友達としか思っていなかったら?
そんな不安が美香を躊躇させていた。
そんな調子で日々が過ぎ、そして10月のある日、決定的な出来事が起こった。
「佐伯さん、ちょっといい?」
クラスメイトの男子生徒が、美香に声をかけた。
爽やかな笑顔のサッカー部員。
クラスでも人気のある生徒だった。
「何?」
「実は、佐伯さんに話があって……放課後、時間もらえる?」
美香は戸惑いながらも頷いた。
その様子を、春斗は遠くから見ていた。
──……なんだよ、あれ
嫌な予感がする。
いや、予感じゃない。
確信だ。
あれは──
放課後、春斗は図書室で一人、勉強していた。
美香は来ない。
例の男子生徒と会っているのだろう。
──別に、俺には関係ない
そう自分に言い聞かせながら、全く集中できない春斗。
結局、その日は早めに帰宅した。
翌日、美香は普通に春斗に話しかけてきた。
「坂登君、昨日ごめんね。急用ができちゃって」
「別に」
春斗は素っ気なく答える。
美香は何か言いたそうにしていたが、結局それ以上は何も言わなかった。
それから、二人の間に微妙な距離ができ始めた。
春斗は意地になって、より素っ気ない態度を取るようになった。
美香もそんな春斗の態度に傷つき、少しずつ距離を置くようになっていく。
──これでいい
春斗は自分に言い聞かせた。
──どうせ俺なんか、誰とも上手くやれない。最初から分かってたことだ
春斗は再度言い聞かせる。
予防線を張る。
なぜなら傷つきたくないから。
一言、尋ねれば済む事を尋ねる勇気がない。
もしここで尋ねたならば、確かに告白は告白であったが、美香がそれを断った事を知れただろうに。
そして11月。
秋が深まる中、二人はほとんど会話をしなくなっていた。