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師走に入り、受験勉強が本格化する時期。
春斗は再び一人で勉強するようになっていた。
図書室の定位置に座りながら、隣の空席を見る。
そこにはもう、美香の姿はない。
──これでいい。元に戻っただけだ
自分に言い聞かせても、心の空虚感は消えない。
クラスメイトたちは、二人の変化に気づいていた。
「坂登と佐伯さん、最近一緒にいないよね」
「何かあったのかな」
「まあ、坂登は元々一人が好きそうだし」
そんな噂話が聞こえてくる。
春斗は無視していたが、内心では苛立っていた。
──うるさい。俺のことなんかほっとけ
ある日の昼休み、春斗は屋上への階段に座っていた。
かつて美香と話した場所。
今は一人だ。
「あの……」
振り返ると、美香が立っていた。
久しぶりに二人きりになった。
「何」
春斗の冷たい声に、美香は少したじろいだが、勇気を出して言った。
「最近、避けてる?」
「別に」
「嘘。だって、全然話してくれないし……」
美香の声が震えている。
春斗は顔を背けた。
「俺は元々、一人が好きなんだよ」
「それも嘘」
美香の断言に、春斗は驚いて振り返った。
「坂登君は、本当は寂しがり屋。人と関わるのが怖いだけ」
そこまでいうと、美香は俯いて呟く。
「──そう、思いたいだけなんだけど。その、つまり……嫌われてるって思われたくない、んだけど」
「何が言いたいんだよ」
──俺は美香になんて言って欲しいんだ?
そんな思いで問い返す春斗。
「だからね……私は坂登君が好き」
時が止まった。
春斗は美香を見つめた。
彼女の瞳には、涙が溜まっていた。
「でも、坂登君は私のことなんて……」
「違う」
春斗は思わず口にしていた。
「違う、俺は……」
でも続きが出てこない。
今まで、感情を素直に表現したことなんてない。
どう言えばいいのか分からない。
美香は春斗の葛藤を見て、悲しそうに微笑んだ。
「ごめんね。困らせちゃって」
そう言って、美香は立ち去ろうとした。
「待て!」
春斗は手を伸ばしたが、美香は振り返らなかった。
一人残された春斗は、拳を握りしめた。
──俺、何やってんだ……
後悔と自己嫌悪が、胸を締め付ける。