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美香の告白から一週間。
春斗は人生最大の苦悩の中にいた。
勉強も手につかない。
食事も喉を通らない。
夜も眠れない。
──なんで俺、あの時……
美香の告白を受け止められなかった自分が情けない。
彼女の想いに応えられなかった自分が許せない。
でも、今更どうすればいいのか。
美香は、あれ以来春斗を避けるようになった。
目も合わせない。
近づこうとすると、さっと離れていく。
──当然だよな……
春斗は自嘲した。
告白してあんな反応されたら誰だって傷つく。
「おい、坂登」
田中が声をかけてきた。
「最近、元気ないな。どうした?」
「……別に」
「佐伯さんとのこと?」
図星を突かれ、春斗は黙り込んだ。
「やっぱりか。お前、佐伯さんのこと好きだろ」
「は? なんで──」
「バレバレだって。あんなに一緒にいたのに、急に避けるようになって。で、最近めっちゃ落ち込んでる」
田中は呆れたように言う。
「素直になれよ。お前の逆張り癖もたまには休ませろ。好き避けとか流行らねえって」
その言葉が、春斗の胸に突き刺さった。
逆張り。
そう、俺はいつも逆張りばかりしていた。
流行に逆らい、空気に逆らい、感情にも逆らって。
でも、美香への想いだけは──
──逆張りできない。
春斗は初めて、自分の感情に素直に向き合った。
俺は、美香が好きだ。
彼女の笑顔が見たい。
彼女と一緒にいたい。
彼女を幸せにしたい。
これは、逆張りじゃない。
本当の、俺の気持ちだ。
──でも、どうやって……
今まで、素直になったことがない。
どうやって想いを伝えればいいのか、分からない。
そんな時、春斗の脳裏にある考えが浮かんだ。
──そうか……
今まで、他人に対して逆張りをしてきた。
でも、今必要なのは──
──自分への逆張りだ
臆病な自分。
素直になれない自分。
逃げてばかりの自分。
そんな自分に、逆張りをする。
春斗は立ち上がった。
やるべきことは決まった。