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第11話「この期に及んで逆張りする男」

 ◆


 美香の告白から一週間。


 春斗は人生最大の苦悩の中にいた。


 勉強も手につかない。


 食事も喉を通らない。


 夜も眠れない。


 ──なんで俺、あの時……


 美香の告白を受け止められなかった自分が情けない。


 彼女の想いに応えられなかった自分が許せない。


 でも、今更どうすればいいのか。


 美香は、あれ以来春斗を避けるようになった。


 目も合わせない。


 近づこうとすると、さっと離れていく。


 ──当然だよな……


 春斗は自嘲した。


 告白してあんな反応されたら誰だって傷つく。


「おい、坂登」


 田中が声をかけてきた。


「最近、元気ないな。どうした?」


「……別に」


「佐伯さんとのこと?」


 図星を突かれ、春斗は黙り込んだ。


「やっぱりか。お前、佐伯さんのこと好きだろ」


「は? なんで──」


「バレバレだって。あんなに一緒にいたのに、急に避けるようになって。で、最近めっちゃ落ち込んでる」


 田中は呆れたように言う。


「素直になれよ。お前の逆張り癖もたまには休ませろ。好き避けとか流行らねえって」


 その言葉が、春斗の胸に突き刺さった。


 逆張り。


 そう、俺はいつも逆張りばかりしていた。


 流行に逆らい、空気に逆らい、感情にも逆らって。


 でも、美香への想いだけは──


 ──逆張りできない。


 春斗は初めて、自分の感情に素直に向き合った。


 俺は、美香が好きだ。


 彼女の笑顔が見たい。


 彼女と一緒にいたい。


 彼女を幸せにしたい。


 これは、逆張りじゃない。


 本当の、俺の気持ちだ。


 ──でも、どうやって……


 今まで、素直になったことがない。


 どうやって想いを伝えればいいのか、分からない。


 そんな時、春斗の脳裏にある考えが浮かんだ。


 ──そうか……


 今まで、他人に対して逆張りをしてきた。


 でも、今必要なのは──


 ──自分への逆張りだ


 臆病な自分。


 素直になれない自分。


 逃げてばかりの自分。


 そんな自分に、逆張りをする。


 春斗は立ち上がった。


 やるべきことは決まった。

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