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第12話「そして──」

 ◆


 12月も半ばを過ぎ、冬休みが近づいていた。


 春斗は意を決して美香に手紙を書いた。


 直接話しかける勇気はまだない。


 でも、想いを伝えることはできる。


『佐伯さんへ


 急に手紙なんて驚いたと思う。


 でもこれしか方法が思いつかなかった。


 あの日、君が告白してくれた時に俺は何も言えなかった。


 それは君のことが嫌いだからじゃない。


 逆だ。


 俺は君のことが好きだ。


 いつからかは分からない。


 気づいたら君のことばかり考えていた。


 君の笑顔を見ると胸が温かくなった。


 君と一緒にいる時間が一番楽しかった。


 でも、俺は臆病者だった。


 素直になることが怖かった。


 断られることが怖かった。


 だから逃げた。


 ごめん。


 でももう逃げない。


 俺は君ともう一度ちゃんと話がしたい。


 12月24日の正午、K駅前で待ってる。


 来てくれなくても、俺は待ってる。


 春斗』


 手紙を美香の机に入れた後、春斗は逃げるように教室を出た。


 ──やった……やっちまった……


 顔が熱い。


 心臓がバクバクしている。


 今までこんなに緊張したことはない。


 ──美香、来てくれるかな……


 不安と期待が入り混じる。


 でも、もう後戻りはできない。


 そうして12月24日。


 クリスマスイブ。


 駅前で春斗は一人待っていた。


 時計ばかり見ている。


 5分経過。


 10分経過。


 30分経過。


 ──来ない……か。


 春斗は項垂れた。


 やっぱり、都合よくいくわけがない。


 あんなに傷つけたのに──


「遅れてごめん」


 顔を上げると、美香が立っていた。


 少し息を切らしている。


 走ってきたのだろうか。


「佐伯さん……」


「手紙、読んだよ。K駅だけじゃわからないよ……出口4つもあるんだよ?」


 美香はそう言って春斗の向かいに立った。


 東西南北ある出口の何口かを書き忘れるという失態に「うっ」とうろたえる春斗。


 ──しまった


 「わ、悪い。すまない……ご、ごめん」


 三重で謝る春斗を見て、美香は「いいよ」と苦笑する。


「それで……その、返事は」


 春斗は緊張で声が震えた。


 美香は少し間を置いてから、口を開いた。


「嬉しかった。すごく嬉しかった。でも……」


 春斗の心臓が凍りつく。


『でも』の後に続く言葉が怖い。


「でも本当に大丈夫? 坂登君、また逃げたりしない?」


 その問いに、春斗は真っ直ぐ美香を見つめて答えた。


「逃げない。もう、逃げない」


「本当に?」


「本当だ。俺、変わりたい。君のためなら変われる気がする」


 春斗の真摯な言葉に、美香の瞳に涙が浮かんだ。


「バカ……」


 美香は涙を拭いながら、でも笑っていた。


「遅いよ。すごく待ったんだから」


「ごめん」


「でも、許す。だって……」


 美香は顔を上げ、涙混じりの笑顔を見せた。


「私も、坂登君が好きだから」


 春斗は立ち上がり、美香の隣に移動した。


 そして、ぎこちない動きで彼女の手を取る。


「俺、不器用だし、素直じゃないし、たぶんこれからも面倒くさい奴だと思う」


「知ってる」


「それでも、いい?」


「うん。だって、そんな坂登君が好きになっちゃったんだもん」


 二人は見つめ合い、そして──

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