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12月も半ばを過ぎ、冬休みが近づいていた。
春斗は意を決して美香に手紙を書いた。
直接話しかける勇気はまだない。
でも、想いを伝えることはできる。
『佐伯さんへ
急に手紙なんて驚いたと思う。
でもこれしか方法が思いつかなかった。
あの日、君が告白してくれた時に俺は何も言えなかった。
それは君のことが嫌いだからじゃない。
逆だ。
俺は君のことが好きだ。
いつからかは分からない。
気づいたら君のことばかり考えていた。
君の笑顔を見ると胸が温かくなった。
君と一緒にいる時間が一番楽しかった。
でも、俺は臆病者だった。
素直になることが怖かった。
断られることが怖かった。
だから逃げた。
ごめん。
でももう逃げない。
俺は君ともう一度ちゃんと話がしたい。
12月24日の正午、K駅前で待ってる。
来てくれなくても、俺は待ってる。
春斗』
手紙を美香の机に入れた後、春斗は逃げるように教室を出た。
──やった……やっちまった……
顔が熱い。
心臓がバクバクしている。
今までこんなに緊張したことはない。
──美香、来てくれるかな……
不安と期待が入り混じる。
でも、もう後戻りはできない。
そうして12月24日。
クリスマスイブ。
駅前で春斗は一人待っていた。
時計ばかり見ている。
5分経過。
10分経過。
30分経過。
──来ない……か。
春斗は項垂れた。
やっぱり、都合よくいくわけがない。
あんなに傷つけたのに──
「遅れてごめん」
顔を上げると、美香が立っていた。
少し息を切らしている。
走ってきたのだろうか。
「佐伯さん……」
「手紙、読んだよ。K駅だけじゃわからないよ……出口4つもあるんだよ?」
美香はそう言って春斗の向かいに立った。
東西南北ある出口の何口かを書き忘れるという失態に「うっ」とうろたえる春斗。
──しまった
「わ、悪い。すまない……ご、ごめん」
三重で謝る春斗を見て、美香は「いいよ」と苦笑する。
「それで……その、返事は」
春斗は緊張で声が震えた。
美香は少し間を置いてから、口を開いた。
「嬉しかった。すごく嬉しかった。でも……」
春斗の心臓が凍りつく。
『でも』の後に続く言葉が怖い。
「でも本当に大丈夫? 坂登君、また逃げたりしない?」
その問いに、春斗は真っ直ぐ美香を見つめて答えた。
「逃げない。もう、逃げない」
「本当に?」
「本当だ。俺、変わりたい。君のためなら変われる気がする」
春斗の真摯な言葉に、美香の瞳に涙が浮かんだ。
「バカ……」
美香は涙を拭いながら、でも笑っていた。
「遅いよ。すごく待ったんだから」
「ごめん」
「でも、許す。だって……」
美香は顔を上げ、涙混じりの笑顔を見せた。
「私も、坂登君が好きだから」
春斗は立ち上がり、美香の隣に移動した。
そして、ぎこちない動きで彼女の手を取る。
「俺、不器用だし、素直じゃないし、たぶんこれからも面倒くさい奴だと思う」
「知ってる」
「それでも、いい?」
「うん。だって、そんな坂登君が好きになっちゃったんだもん」
二人は見つめ合い、そして──