「そういえば、巨大化ばっかりしてるけど、黒蛇さんってどういう術使えんの?」
「あ、それ僕も気になってた」
円術争の作戦を一緒立てていた柿本と高垣が聞いてきた。
「術?黒朱が使えるって、普通の弥魔術ちゃうん?」
「「え?」」
「あれ?」
三人は、顔を見合わせた。
『あ、しもた。紅雨は全然知らへんかったな。ワシら物の怪は、存在そのものがヒトとは違うんや。使う術も色々とちゃうで』
「初耳」
紅雨が驚くと、柿本と高垣も目を見開いて驚いていた。
「まっじで?あーでも、そっか、そのへん習うんって中三やったっけ?」
「弥魔術やなくて、物の怪のことを習う授業で教えてもらったな。そら知らへんわ。しかも、高校入ってから今までは星無さんが使う機会なかったやろうしなぁ。授業でも、物の怪の術の実践訓練は一年でやるやん」
二人の言葉に、紅雨はほぅほぅとうなずいた。
「ほんなら、二年では実践訓練せぇへんの?」
「いやいや、体育でやってるやん。円術争。あれで練習してるねん」
「そう。やねんけど、
「「あー」」
柿本の言葉に、紅雨と高垣は納得した。
「それで、どういう系統?俺の空穴は氷系の術使うから、言うてたみたいに地面に氷を出して転ばしたり、あとは氷の塊出して邪魔したりできるわ」
「僕のダイフクは音系。超音波出して相手の物の怪の聴覚を混乱させたり、相手の耳元の音を消して聞こえへんようにしたりできるで」
物の怪たちが使う術は、弥魔術とは違うという。
弥魔術は、種類に関係なく自然現象を引き起こすようなものが中心で、氷を作るなら水と温度変化の両方を使う。
物の怪は、複数組み合わせて再現できなくもないといった独特の術をワンステップで使うらしい。
「ほな、黒朱はどういうの使うん?」
『影や』
「かげ」
紅雨はよくわからずに首をひねり、柿本と高垣は息をのんだ。
『相手の影に入って、動きを止められるんや。円術争で使うんやったら、ワシが動きを止めとる間に紅雨が押して円から外に放りだしたらええんちゃうか』
「え、えぐい」
「影があったらできるってこと?うわ、すっご」
「曇ってたらどうなるん?」
紅雨は、素朴な疑問を抱いて素直に口に出した。
体育祭はグラウンドで行われるので、曇りの場合は使えないなら意味がない。
『大丈夫や。曇りの日でも雨の日でも、足の裏の下には影ができとるやろ?それで十分や』
「それなら安心やねぇ」
「もしかして、電気の影でも同じ感じ?」
『せやで。光源がなんであれ、影は影やからな』
すごい、と感心する二人を前にして、黒朱は胸を張るように頭をもたげた。
「なら、夜天はどうなんやろ……。やーてーんー!ちょっとこっち来て教えてー!」
紅雨が空に向かって叫ぶと、すぐに烏が飛んできた。
『はいなー!どしたん紅さん』
「なぁなぁ、夜天はどんな術使えるん?黒朱は影やって」
『あぁ、今頃かいな。アタシは空気関係やで。風起こしたりとかそういうの』
夜天は、左の羽根をひらひらと揺らして見せた。
「風かぁ。それも便利そう」
『風も含んだ空気全般!アタシは勉強したから、酸素だけーとか窒素だけ―とか、そういう扱い方もいけるで』
「ドライアイス作ったり?」
『それは温度管理が必要やから無理やなぁ』
夜天は軽く首を左右に振った。
「ん?でも、確か個体って分子が動かへんようになってる状態やろ?ほな、二酸化炭素だけぎゅーっと集めて動かへんようにしたらええんちゃうん」
『それは……どうなんやろ。ちょいまち、やってみるわ』
「おぉ!夜天の術初めて見るから楽しみ!」
『ワシのんも見てへんやん』
「黒朱は伸び縮みしとるがな」
『伸び縮みて』
不満そうな黒朱をよそに、夜天は考えるように空中を見ていた。
『えーっと、二酸化炭素だけ集めてぇ、で、分子の動きを止めてぇ。……止め、止め、いや動くなや!止まれ!ほんでひっつけ!』
「頑張れ!夜天ならできる!」
『アタシならできる!空気くらい止められる!!ってできたぁ?!』
夜天の目の前の地面に、ころりと小さなドライアイスの塊が出現した。
それを見て、紅雨と夜天はきゃっきゃと喜んだ。
「えぇ……蛇さんだけやなくて烏さんもチートやん」
「ってか、星無さんも術力渡してなかった?」
高垣に聞かれたので、紅雨はよくわからずに首をかしげた。
「え?術力って渡せるん?」
「そこからかぁ」
「うん、渡してた。だから烏さんの術が成功したんやで。契約してると、物の怪に術力渡して術使ってもらうことができるねん。威力が上がったり、成功率上がったりするんやわ」
柿本がそう説明し、空穴の使う術のうち威力の強いものは術力を渡していると教えてくれた。
これは高校一年生の二学期ごろに習うことらしい。
「へぇ、そうなんや。ん?それやったら、一年生めっちゃ不利やない?」
「そうそう、不利やねん。やから、ハンデがある。対一年生のときだけ、上級生が使っていい術は二回まで。単純な体当たりとか物理的なやつは制限なし」
一応、一年生でも勝てるようにしてあるらしい。
とはいえ、それでも決勝戦はほとんどが三年対三年、たまに三年対二年になることがあるくらいだという。
「まぁ、さすがに契約して数か月っていうのはなぁ」
「え、うちも同じやねんけど」
「星無さんは別格。黒でふたりとかまずおらんし」
「そうそう。ってことで、練習再開しよか!」
未経験者に優しくないと少々文句を言いたくなったが、黒朱と夜天の実力を認められて悪い気はしない。
紅雨たちは話し合いを再開し、黒朱と夜天の術をどう使うかも組み込んで作戦を立てた。
紅雨の戦い方はこうだ。
基本的な方針は同じで、はじめは黒朱を巨大化する方法で蹴散らしていき、それで対応しきれなくなったら影で縫い留めて押し出す。
それも避けられるようなら、夜天のかく乱で影に入らせるようにする。
三人一チームで先鋒・中堅・大将という順番なので、これは都度くじ引きにすることにした。
とはいえ、明らかに強い敵が一人いるという場合には、紅雨が勝てるところに当てる作戦になった。
柿本曰く、確実に勝ちを稼ぐ方がチームとして勝ち残れる算段があるらしい。
紅雨も高垣も納得したので、その作戦でいくことになった。
これまで、体育祭など疲れるイベントというイメージしかなかった。
いまは円術争があるだけで、ものすごくワクワクする。
自分はこんなに好戦的だったかな、と疑問に思ったが、単純に黒朱や夜天と一緒にできることが楽しいだけかもしれない。
いずれにしても、楽しんで頑張るだけだ。