まずは各学年三チーム、合計九チームがグラウンドの中央へ集まった。
体育委員が円術争の学生ルールを改めて確認したあと、トーナメントのためのくじ引きを行った。
『はい、では八枠にきたのは二年伍組!』
一回戦は、一枠対二枠、三枠対四枠、五枠対六枠、七枠対八枠の四戦。
九枠はシードで、三年弐組が取っていた。
そして七枠と八枠だけは、優勝までにこなす試合が一回多い。
「高垣ぃ」
「ちょっ、しょうがないやん!くじ引きやねんから!」
くじを引いた高垣に、柿本が絡みにいった。
クラスメイトの方からも、ちょっとしたブーイングが聞こえてくる。
「まぁまぁ。何回も戦えるってことでええやん」
「つ、
「いっぱい勝ってや、高垣くん」
「つ、星無さん……」
一度喜色を浮かべた高垣は、にっこりと笑顔を作った紅雨を見て頬をひきつらせた。
横にいた柿本まで引いていたのは解せない。
第一試合は、一枠対二枠、三枠対四枠、七枠対八枠の三組がそれぞれ行われる。
第二試合は五枠対六枠、七枠と八枠の勝者対九枠の二組。
第三試合は準決勝、第四試合が決勝だ。
うまく勝ち進むと、四回連続で戦うことになる。
「ふぁあいとー!」
「「おー!!」」
三人で円陣を組んで、手を重ねて気合を入れた。
ちらりと見た一年チームの中に、涼介が見えたのでひらひらと手を振った。
ふいっと顔をそらされてしまったが、足元に白黒の猫がいるのが見えた。
多分、あの猫が涼介の契約している物の怪だろう。
四本の尻尾が見えたので、猫又らしい。
第一試合は一年伍組と当たった。
ちなみに順番はくじによって先鋒柿本、中堅高垣、大将紅雨となった。
さすがに対一年とあって、二人とも危なげなく勝った。
そして紅雨の番になった。
「大将戦、はじめ!」
大将としてできた一年生は、赤い狸を連れていた。
『なぁ紅雨』
「なに?巨大化したらすぐ終わるかなと思ってんねんけど」
『や、そこまでせんでもええかもしらん。相手、赤やろ?ワシが睨んだら委縮して終わるかもしらへんで』
紅雨はちらりと黒朱を見た。
試合相手は、動きのない紅雨たちを警戒しているらしい。
「えっと、ルールでは術師か物の怪のどっちかが円の外に出て土に付いたらあかんねんやったっけ。あと、相手が降参した場合」
『せや。試合やし、さすがに降参はせえへんのとちゃうか?でもすでに動かれへんみたいやけどな。ワシ思い切り威圧するから、固まったらあいつ押してみぃ』
「わかった」
そして、黒朱がにょろりんと首をもたげて相手の赤い狸をじろりと見つめた。
対面したときから動きの怪しかった狸は、カチン!と固まった。
「え?あれ、
『きゅ、きゅぅぅぅ』
ピルピルと震える赤い狸の夕子は、尻尾をお尻に巻き込んでいた。
「わぁかわいそ」
そう言いながら、紅雨は遠慮なく夕子に向かって走り、蛇の黒朱に委縮して動けないのをいいことに、赤い狸をひょいと持ち上げて円の外に置いた。
持ち上げるために腕を近づけたら、黒朱の顔をもろに見ることになって涙目になっていた。
『おぉっと?!黒蛇が動いたと思ったら赤狸が動かなくなった!そのまま外に出して、二年伍組の勝利だぁああ!!』
クラスメイトのいる席の方から、歓声が聞こえた。
次の試合相手は、三年弐組だ。
先鋒は紅雨、中堅が柿本、大将が高垣。
向こうの先鋒には、白と黒の鹿がついていた。
「黒朱、さすがに次はさっきみたいにはいかんよな?」
『さすがに黒持ちやし。それに、三年やろ?色々経験も積んどるやろうからなぁ』
「やっぱり。ほな、とりあえず初見殺しでいこか」
『おけ』
試合の打ち合わせをしてからコートに入ると、アナウンスが響き渡った。
『第二試合、東側は三年肆組対一年壱組!こちらは出来レースになるか?!西側は謎の勝ち方をした二年伍組対三年弐組!こちらはどうなるか読めません!!』
紅雨は思わずずっこけそうになった。
『では、第二試合先鋒戦、はじめ!』
「醤油、まずは――」
相手が攻撃の命令をしようとした声に被せて、紅雨は叫んだ。
「黒朱!戻って押し出し!」
『りょー』
「っ?!ぅわぁあああああっ!!」
『ちょまっ!えぇぇえええ?!!!』
さすがの三年生の鹿も、大きさの暴力には勝てなかった。
『なんだなんだぁ?!ってでっかっ!!え、でっかぁあい!西側コート、でっかい黒蛇が相手を押し出して勝負ありのようです!』
押し出された相手も、相手チームの人たちも、一年生と三年生のほとんども、声も出さずに驚いていた。
「先鋒、に、二年伍組、の勝ち!」
審判が何とか気を取り直して宣言し、クラスメイト達の方から大きな歓声が聞こえた。
「小さくなって戻っといで」
『あいよー』
黒朱はしゅるんと小さくなり、いつものように紅雨の腕に巻き付いた。
中堅戦と大将戦は、動揺した三年生の隙をうまくついて柿本が勝ち、高垣が引き分けをもぎ取った。
準決勝の相手は順当に一年生を下した三年肆組で、紅雨は黒朱の睨みと巨大化の併せ技で勝った。柿本は負けてしまったが、高垣が頑張って勝ったのでこの試合も勝ち進んだ。
そして決勝戦。
『先生によると、十数年ぶりだそうです!!一年対二年!三年がいない決勝戦です!!ダークホース、一年参組!あの日下涼介率いるチームがやってきた!対するはこちらもノーマークだった二年伍組!巨大化する黒蛇はどこまで勝ちを重ねるのか?!』
「あのって、涼介くん有名人なん?不良やから?」
アナウンスを疑問に思った紅雨は、隣に立っていた高垣に聞いた。
「え?星無さん、あの日下と知り合いなん?まぁ有名は有名やけど――」
『では、先鋒はコートに入ってください!』
「あ!順番決めやな!早く早く!!」
高垣は説明しかけたが、試合を進めるアナウンスで順番を慌てて決めることになったので途中で話が終わってしまった。
そして、先鋒は高垣、中堅は紅雨、大将は柿本になった。
向こうの大将が涼介だったので、確実に勝ちを重ねるために紅雨は涼介を避けた形だ。
先鋒戦の相手は白と灰の兎で、これは相性が良かった。
霧を出して視界を防いできたが、ダイフクの音波攻撃で聴覚を思いっきりやられた兎を、高垣がかすめ取って外に放り出して勝った。
次は紅雨と白い狼を連れた男子の対戦だ。
「黒朱、足に」
『あいよ』
試合が始まる前に、黒朱が巻き付く位置を変えた。
腕だと重いので、なるべく早く動けるように足にしたのだ。
『では、決勝中堅戦はじめ!』
「
『はあーい』
びゅん、と狼がこちらに跳んできたので、紅雨は何とか避けて逃げた。
『紅雨、うまいことやってや』
「がんばるけどぉ!足は遅いねんで!」
『おっと?今回は黒蛇は小さいままの模様!時間制限でもあるのか?!』
「凍雲、できたら体当たり!」
『ん-、やってみる』
「無理!夜天ー!狼さん追いかけてぇ!」
紅雨は、クラスの方に向かって叫んだ。
『任しときぃ!』
『お?ここで二年伍組は追加の物の怪!黒い烏が追加投入です!』
びゅぅん、と一直線に飛んできた夜天は、白い狼の尻尾をちょいんっ!とつついた。
『ひぎゃっ!しっぽ?!いた!いたい!やめって!』
『これも勝負や、堪忍なぁ』
『ちょ!むり!うえからずるい!』
ちょんとつついては空中に離れ、つついては離れする夜天に翻弄される白狼。
たまらず、一旦術師のところへ戻ろうとした。
『おっと?烏が白狼をつついているようですね。反撃か?いや、作戦立て直しのようです!術師のところへ戻る!基本ですね。って、ここで出る二年伍組!どうするのか?!』
白狼の後ろにすかさずついていく紅雨。
そして、白狼と術師の影が重なるところを右足でダンッ!と踏んだ。