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13 不可思議をさらに学ぶ 1

「ねぇねぇつきちゃん、この間から聞きたかってんけど」

「うん?なんかあった?」


紅雨は、ゆえりと一緒に食堂で昼食をとっていた。

ほかに、クラスメイトの三国南柚みくに なゆと植村春乃も一緒だ。

最近は、この四人で行動することが多い。


「一年の日下くんと知り合いやったん?怪我したとき運んでもらったりしてたやろ?ずっと気になっててんけど、なかなか聞かれへんくて」

「あ、それあたしも気になってた。どこかで会ったん?」


ゆえりと一緒に聞いてきたのは春乃だ。

彼女の白烏しろからすも夜天と同じく自由に行動するタイプで、弥魔術の授業以外ではあまり見かけない。


「あぁ、涼介くん?前に放課後使って弥魔術の練習してるときに、屋上で会ったんよ。そんで術のこと色々教えてもらって、お返しに中間テストの学科を教えてん。涼介くんだけやなくて、あと四人友達になったわ」

「そうなんや」

「つきちゃん、真面目タイプやと思ってたからちょっと意外やったわ」


そう言ったのは南柚だ。

心配そうな表情なので、どうやら無理強いされているのではと思っていたらしい。

ゆえりと春乃もうなずいた。


「確かに。ちょっと有名なグループやからね」

「別に暴力事件起こしたりはせぇへんみたいやけど、ちょっとね」

紅雨は、ふと思い当たることがあったので答えた。


「あー、うちの中学があれやったから、そういう雰囲気には耐性があるねん」

「え、そうやったん?」

「うん、公立やけど結構やばいとこやった。で、このままやとあかんと思って必死に勉強してかろうじて進学校的な高校に入ったんやけど、途中で呼ばれてこっちに来た感じ」


「進学校?どこ?」

「かろうじてやで。浪人含めて八割くらいが大学進学するとこ。大阪の旭ヶ岡高校」

「あ、知ってる。制服がちょっと可愛いとこやんね」


「あたしは兵庫やからわからへんわ」

「あたしは三重やからもっとわからんで」

「結構あっちこっちから来てるよねぇ」

「関西が多いけど、弥魔拾学園がいいって来る人もおるって聞いたことあるわ」


女子が四人も集まると、話は終わらないないしどんどん話題が変わっていく。

昼休みもあっという間に終わってしまうが、それは楽しい毎日だ。




体育祭が終わったので、放課後の勉強も再開した。

中学一年の二学期の分から学び始めたが、解放さえ終わっていればかなりサクサクと進んだ。

五行の考え方に沿った術を順番に訓練し、理論も併せて読んでいった。


どうやら中学レベルの理科の知識が必要らしく、途中からは理科の授業の進行に合わせて進んでいくようだった。

紅雨はとっくに中学レベルは理解できているので、すんなり理解できていった。


涼介たちの助けを借りながら弥魔術の実践練習を行い、なんとか期末試験前までに中学一年生の範囲を終えることができた。



「一年では水と土と木までやねんね。次の二年では金と火かぁ。続けてやりたいけど、期末やから勉強しやなあかんし、しばらくはおあずけやわ」

「今回もお世話になります」

「頼むっす、姐さん」


勉強のために空き教室にいた紅雨のところへ、涼介たちがやってきていた。

多少勉強しておけばそれなりに結果が出ると前回わかったので、勉強する気になったようだ。


「普段からやっといたら、ちょっと見直す程度で十分やのに」

「それは無理っす。というか、高校の範囲難しくないっすか?」

「確かに。姐さんと一緒にしないでくださいよ。見直しくらいじゃ問題解けませんって」


悠真と陸が口々に言った。

涼介も黙ってついてきていて、机をくっつけるようにして動かしていた。

教科書やノートも持ってきていたので、前よりはやる気らしい。


「じゃ、とりあえずこの弥魔術の理論の過去問渡すわ。うちのと一緒にもらってきたし」

「あざっす!」

駿がお礼を言いながら受け取り、さっと席に着いた。


「今回赤点だったら夏休みが減りますからね!すぐ帰省するって言ってんのに帰らなかったら、赤点がバレてえらいことになる未来しか見えない」

「それな。期末で赤点だったら一週間補講とかやばすぎ」

海斗と悠真も愚痴りながら椅子に座った。

ふとその言葉が気になり、紅雨は口を開いた。


「みんな普通に休みの初日から帰省する感じ?実家って関東やんね?」

「あぁ、俺は山梨です」

「俺埼玉」

「群馬県です」

「神奈川」

海斗、悠真、陸、駿の順番に答えた。

どうやらみんなバラバラらしい。


「ふぅん、結構遠いのに大変やね。涼介くんは?」

「……俺の実家はない。弥魔の本島にある施設育ちだからな」

「本島の施設?そんなんあるんやね。帰ったりするん?」

「いや、帰らない」


「そうなんや。じゃあ夏休みもちょっと弥魔術の練習に付き合ってな!」

「あ?紅雨は帰らないのかよ」

「うちは近いし、お盆の前後五日間くらいだけ帰るねん。それ以外はこっちで勉強進める予定。学校やったら図書館開いてて涼しいし、弥魔術の練習もやり放題やし」


「……そうか」

「そろそろテス勉しよか。うちもちょっと頑張らんと、英語のグラマーが怪しいねん」

「俺、英語は問題集の丸暗記しかできません」

「英語はまぁ大丈夫かな。俺は数学がやばい。ちょっと寝てたらわからなくなった」

「数学と化学が厳しい感じ。あと世界史と英語も」

『いやほとんどやがな』


それぞれ勉強用の問題集や教科書を開きながら、たまに紅雨の机でとぐろを巻いた黒朱や、窓から入ってきた夜天も参加して、穏やかに勉強を進めていった。

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