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余命わずかの公爵令嬢は新米結婚詐欺師に恋をする
余命わずかの公爵令嬢は新米結婚詐欺師に恋をする
マカロー
異世界恋愛ロマファン
2025年05月31日
公開日
8,348字
連載中
貴族社会の華やかな舞台に生まれながらも、誰にも言えない秘密を抱える公爵令嬢アメリア。彼女は重い病に侵されており、その病は国家機密とされているため、公には一切明かされていない。余命わずかなことを知ったアメリアは、孤独なまま静かに人生を終えるつもりだった。 しかしある日、運命のいたずらか、まだ未熟で経験の浅い新米結婚詐欺師の青年リュカと出会う。彼の不器用で真っ直ぐな姿に、アメリアは心を動かされる。逆に彼女は自分の短い命を隠しながらも、わざとリュカの甘い嘘に引っかかることを選ぶ。偽りの結婚計画の中で、二人は本物の絆を育んでいく。 国家の秘密が二人の関係を危険にさらし、そして命の刻は刻々と迫る中、アメリアは「最後の恋」としてリュカとの時間を全力で生きようと決意する。しかし詐欺師の彼にとっても、彼女の真実は予想もしない運命の転機だった――。 愛と嘘が交錯する、儚くも鮮烈なラブストーリー。

第1話 「初めての嘘」

薄曇りの朝。淡い陽光が貴族の邸宅をやわらかく包み込んでいる。花々が咲き乱れる庭園の片隅で、アメリア・フォンダーヌはそっと瞳を閉じた。


「今日も……平穏でありますように」


彼女の声は小さく、ほとんど風に溶けてしまいそうだった。けれどその瞳は、ほんの少しだけ潤んでいるのを誰も気づかなかった。公爵令嬢としての誇り。病気を隠し、最後まで弱さを見せぬ覚悟。誰も知らない秘密を抱えて、アメリアは今日も元気なふりをしていた。


「アメリア様、おはようございます」


執事のフィリップが優しく声をかける。彼の顔にはいつも通りの穏やかな笑みが浮かんでいたが、アメリアは知っている。彼もまた、彼女の秘密を知る数少ない一人であることを。


「おはよう、フィリップ。今日もお庭が綺麗ね」


淡い微笑みを返すと、アメリアはゆっくりと歩き出した。長いドレスの裾をふわりと揺らしながら、彼女の心はどこかざわついていた。なぜなら――今日は、あの男が訪ねてくる日だから。


「公爵令嬢アメリア・フォンダーヌ様の異国の遠い親戚」と名乗る青年が、初めてこの屋敷を訪れたのは、ちょうど数日前のことだった。


リュカ・ヴァレンティーノ。黒髪に瞳は柔らかな茶色。少し幼さが残るその笑顔は、どこか純粋で、不器用な印象を与えた。彼は裕福な家系の血筋であると信じ込ませるため、簡単な嘘を重ねていた。


「初めまして、アメリア様」

リュカは緊張しながらも、紳士らしい態度で挨拶をした。彼にとって、この訪問は初めての大きな「仕事」だった。


しかしアメリアは、彼の嘘を一瞬で見抜いた。声の震え、目線の泳ぎ、小さな仕草の不自然さ。詐欺師としての初歩的なミスも、彼が経験不足であることも、すべて丸わかりだった。


それでも、彼女は面白かった。

そして、そんな彼を「かわいい」と思い、一目惚れしたのだ。


「異国の遠い親戚」だなんて――嘘くさいけれど、彼の不器用な嘘がどこか憎めず、心の奥でそっと応援したくなる。彼が持つどこか儚い雰囲気に、アメリアは静かな興味を抱いた。


「ようこそ、ヴァレンティーノ家のリュカ様」


華やかな晩餐会の席で、アメリアは彼に微笑みかけた。嘘の香りに満ちたその招待を、彼女は心から楽しんでいるように振る舞った。


「リュカ様、貴方は本当に……異国から来たのですか?」


アメリアの問いに、リュカは少し戸惑いながらも答える。


「はい、そうです。遠い親戚の話は本当で、いつかお会いできる日を心待ちにしていました」


嘘と真実の境目で揺れる彼の言葉。アメリアはその曖昧さを楽しむかのように、にっこりと微笑んだ。


「それなら良かった。お互いのことを少しずつ知っていきましょう」


彼女の声は甘く、優しかった。けれど、その瞳は冷静にリュカを見つめていた。


「私は貴方のことを全部知っているわ」


その言葉を心の中で繰り返しながら、アメリアはもう一度深呼吸した。彼に騙されたふりをして、この瞬間を楽しみたい――そんな思いが胸に満ちていた。


夜。アメリアの部屋の窓から見える星空は、いつもより少しだけ輝いて見えた。


「リュカ……」


彼の名前を口にするたびに、胸の奥が甘く締め付けられるようだった。短い命の中で、初めて誰かを本気で愛してしまった――それが嬉しくて、怖かった。


彼がまだ自分に気づいていないこと。詐欺師である彼が無垢な笑顔を向けてくれること。


すべてが、奇跡のように思えた。


「どうか、私の嘘に気づかないで」


アメリアはそう願いながら、ゆっくりと目を閉じた。愛と嘘が交錯する甘く切ない恋の始まりを、静かに心に刻みつけて。


この物語は、彼女が本当の愛を知るための、小さな嘘から始まった――。

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