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第6話 「嘘の中の真実」

マルティア王国の秋は、金色の光と柔らかな風が交差する季節。公爵家の庭園では、紅葉が舞い落ち、静かな時間が流れていた。


アメリアは、リュカと共に庭園を歩いていた。彼女の笑顔は相変わらず明るく、病の影など微塵も感じさせない。しかし、その瞳の奥には、言葉にできない想いが秘められていた。


「リュカ様、今日は特に風が心地よいですね」


「そうだな、アメリア」


リュカは微笑みながらも、心の中では複雑な感情が渦巻いていた。彼の過去が、今の彼を形作っている。


リュカの生まれ育った家は、貧困と暴力が支配する場所だった。酒に溺れ、暴力を振るう父。男に依存し、浪費を繰り返す母。幼いリュカは、そんな家庭の中で弟妹たちを守るため、早くから働き始めた。


しかし、正当な手段では家族を養うことはできなかった。リュカは、詐欺という道を選ぶしかなかった。人を騙し、金を得ることでしか、家族を守れなかったのだ。


「リュカ様、何か考え事をされているのですか?」


アメリアの問いかけに、リュカははっと我に返った。


「いや、君といると、つい時間を忘れてしまう」


リュカは微笑みながらも、心の中では罪悪感が募っていた。彼女を騙しているという事実が、彼の心を締め付けていた。


その夜、リュカは一人、部屋の中で過去を思い返していた。弟妹たちの笑顔、父の怒声、母の涙。すべてが、彼の心に深く刻まれていた。


「俺は、何をしているんだろうな……」


リュカは、アメリアとの時間が本物であることを願いながらも、自分の行いがそれを壊してしまうことを恐れていた。


翌日、アメリアとリュカは再び庭園を歩いていた。アメリアは、リュカの手をそっと握った。


「リュカ様、私はあなたと過ごす時間がとても好きです」


リュカは、その言葉に胸が締め付けられる思いだった。


「アメリア、俺も君といると、心が安らぐ」


しかし、リュカは自分の過去を明かすことができなかった。彼女を守るため、そして自分自身を守るために。


夜、リュカは再び一人で過去を思い返していた。弟妹たちの未来のため、彼は詐欺師として生きる道を選んだ。しかし、アメリアとの出会いが、彼の心に変化をもたらしていた。


「俺は、彼女を騙し続けることができるのか……」


リュカの心は揺れていた。アメリアへの想いと、自分の過去との狭間で。


アメリアもまた、リュカとの時間を大切に思いながらも、彼の瞳の奥に隠された何かを感じ取っていた。彼女は、自分の病を隠しながらも、リュカとの未来を夢見ていた。


「リュカ様、あなたの本当の姿を、いつか見せてください」


アメリアの心には、リュカへの深い愛情と、彼の真実を知りたいという想いが交錯していた。


こうして、リュカとアメリアの物語は、甘く切ない嘘と真実の狭間で、静かに進んでいく。二人の心が交わるその日まで。



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