秋が深まるにつれて、館の庭は黄金色の光に包まれていた。枯れ葉が風に舞い、二人の歩く小径にもひらひらと落ちてくる。
「リュカ様、今日は少し肌寒いですね」
アメリアは肩をすくめて笑う。彼女の声はいつもより少しだけ震えていたけれど、その笑顔はどこか無垢で透明だった。
リュカはふっと微笑み、彼女の手をそっと取った。
「君といると、寒さも怖くない」
その言葉にアメリアの心臓が小さく跳ねた。でも、同時にどこか遠い視線でリュカを見ている自分にも気づいていた。
館の書斎に戻ると、重厚な本棚の間で二人は並んで座った。リュカは珍しく落ち着いた表情で話し始めた。
「アメリア、公爵家のことはどう思っている? 重圧とか、感じているのか?」
彼の問いにアメリアは少し考えてから、ゆっくりと答えた。
「公爵令嬢であることは誇りだけど、自由じゃないことも多いの。期待されること、守らなきゃいけないことがたくさんある。だけど……私は、そんな私を誰かに全部見せる勇気がまだないのよ」
リュカはその言葉を静かに受け止め、彼女の手を握り直す。
「君が何を隠しているのか、俺にはわからない。でも、もし話せる時が来たら、俺は全力で受け止める」
アメリアはその言葉を聞いて、胸の奥にあった小さな扉が少しだけ開く気がした。
日が暮れ、二人は暖炉の前で向かい合った。リュカの目が一瞬だけ揺れ、アメリアはそれに気づいた。
「リュカ様、本当にあなたは私の親戚なの?」
問いかけると、リュカは少し驚いたように目を見開いた。
「……そうだ。遠い親戚だ」
その返事には、どこか曖昧な影があった。
アメリアは笑ってごまかした。
「ふふ、変な質問をしてごめんなさい。ただ、あなたはいつも完璧すぎて、本当のあなたがどこにいるのか分からなくなるの」
リュカは無言のまま彼女を見つめ、その瞳は真剣そのものだった。
その夜、アメリアは一人、窓の外を見つめていた。
「どうしてこんなにも彼を信じたいのに、同時に疑ってしまうんだろう……」
彼女の心は複雑で、病気のことも隠しながら、リュカとの未来を夢見ることも許されない。
一方リュカもまた、自室の机に向かい、密かにスマートフォンの画面を見つめていた。
「詐欺師の俺に、こんな感情は必要なかった。だが、君を騙すことに罪悪感が生まれ始めている」
彼の言葉は小さく震えていた。誰にも知られたくない本当の感情だ。
次の日、二人は庭で再び顔を合わせた。アメリアはいつもより少しだけ大胆にリュカに近づき、小声で囁いた。
「リュカ様、私……あなたのことが好きよ。嘘でも偽りでも、あなたと過ごす時間が私の宝物だから」
リュカは驚いたように見つめ、やがて優しく彼女の頬に触れた。
「俺もだ、アメリア」
でも、彼の心にはまだ「いつか本当の姿を見せなければならない」という焦りがあった。
静かな夜が二人を包み込む中、甘く切ない嘘と本当の間で揺れる二人の物語は、まだ終わらない。