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悪役令嬢はもう1人の私。
悪役令嬢はもう1人の私。
ゆる
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月31日
公開日
2.6万字
連載中
侯爵令嬢エリナは、ある日突然、王太子から婚約破棄を言い渡される。理由は――「他の男と密会していた」との目撃証言。身に覚えのない罪に戸惑いながらも、社交界から冷たい視線を浴びせられ、家族からも距離を置かれるようになっていく。 だが彼女は知らなかった。世の中には「自分そっくりのもう一人の自分」が存在していることを――。 静かに自らの潔白を証明しようとするエリナの前に現れたのは、かつての政略結婚の相手だった第二王子カイル。冷徹なはずの彼が、なぜかエリナに手を差し伸べる。「真実を一緒に突き止めよう」と。 偽りの影に翻弄されながらも、真実の愛と自分自身の存在を取り戻していくエリナの物語。

第1話 いわれなき中傷からの婚約破棄1: 舞踏会での告発

 煌びやかな装飾が施された宮殿の大広間。エリナ・ウィンチェスター侯爵令嬢は、婚約者であるリアム王子の隣に立ちながら、集まった貴族たちの華やかな談笑を眺めていた。

彼女の銀糸のような髪は宝石のように輝き、完璧な笑顔を浮かべるその姿は、まさに王妃候補にふさわしい。リアムもまた、王族の威厳と優美さを備えた青年で、二人は理想的な婚約者同士と称されてきた。


しかし、その和やかな空気が突然一変したのは、リアムの冷たい声が響いた時だった。


「エリナ、話がある。」

彼の声はいつになく低く、広間にいた貴族たちも何事かと耳をそばだてた。エリナはリアムの表情の硬さに気づき、不安を覚えながらも微笑みを崩さずに返事をした。


「どうされましたの?リアム様。」

しかし、返ってきた言葉は彼女の想像をはるかに超えるものだった。


「この場を借りて、君との婚約を破棄させてもらう。」


広間は静寂に包まれた。エリナの耳に、さざ波のようなざわめきが届く。信じられない言葉を聞いたエリナは、一瞬何が起こったのか理解できなかった。


「……何をおっしゃっているのですか、リアム様?」

エリナは冷静を装いながらも、動揺を隠せない声で問い返した。


リアムは目を逸らすことなく、毅然とした態度で続けた。

「君がここ数か月で行った数々の不正行為が明らかになった。多くの証言と証拠が君の罪を示している。そんな人物と婚約を続けるわけにはいかない。」


その言葉に広間が再びざわめいた。エリナの顔から血の気が引き、周囲の視線が痛いほどに突き刺さる。


「不正行為……?そんなこと、私は一度たりとも――!」

エリナは必死に反論しようとしたが、リアムは彼女の言葉を遮った。


「証拠が揃っている以上、君の弁明に意味はない。」

その冷たい言葉に、エリナの心は深く傷つけられた。



---


リアムの一方的な宣言により、エリナの名誉は大きく傷つけられた。彼女の周囲にはすぐさま噂が広まり、目撃証言や「証拠」と称されるものが次々と出されていた。


舞踏会が終わった後も、彼女の耳には冷たいささやきが届いていた。

「ウィンチェスター家の令嬢があんなことを……」

「彼女が次期王妃だなんて、信じられない!」

貴族たちの陰口は、エリナの自尊心を容赦なく蝕んでいった。


「リアム様……どうして私を信じてくださらないの……?」

自室に戻ったエリナは、静かな部屋の中で呟いた。彼女の目からは一筋の涙が頬を伝い、床に落ちた。


翌朝、エリナは何事もなかったかのように振る舞うことを決めた。心の中で動揺や悲しみが渦巻いていても、それを表に出すわけにはいかなかった。ウィンチェスター家の令嬢として、弱さを見せるわけにはいかない――そう自分に言い聞かせた。


しかし、使用人たちの視線にもどこか距離感があり、噂が家の中にも広がっていることを感じ取った。家族もまた、彼女に対して冷たくはないものの、どこかぎこちない態度を取るようになっていた。


「エリナ、君の話は本当なのか?」

父親であるウィンチェスター侯爵が声を掛けてきたのは朝食の席でのことだった。


「もちろんです、父様。私がそのような行為をした覚えは一切ありません。」

毅然とした口調で答えるエリナ。しかし、侯爵の顔には明らかに疑念が浮かんでいた。


「そうか……だが、これ以上問題が大きくなるようなら、家のためにも何らかの対処をせざるを得ない。覚悟しておくように。」

その言葉にエリナは胸が締め付けられる思いだった。家族にまで疑念を抱かれているという事実が、彼女の心をさらに追い詰めた。


「誰も私を信じてくれない……ならば、自分自身で真実を証明するしかない。」

そう決意したエリナは、名誉を取り戻すために自ら動き出すことを心に誓った。





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