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第2話 いわれなき中傷からの婚約破棄2: 周囲の疑惑

 エリナが婚約破棄を言い渡されてから数日が経過していたが、状況はますます悪化する一方だった。王宮から帰るとすぐに、自宅に謎の手紙や証拠と称するものが送りつけられ、その内容が彼女をさらなる窮地に追い込んでいた。書かれていたのは、エリナが裏で使用人に不正な命令を出していたという告発や、他の貴族を陥れる計画を立てていたという噂の詳細だった。


「こんなこと、あり得ない……!」

エリナは手紙を握りしめ、震える声で呟いた。筆跡は確かに彼女のものに似ていたが、そんな命令を下した覚えは一切ない。それどころか、文章の内容は彼女の価値観と正反対だった。


「こんな証拠を作り上げてまで、私を陥れようとしているのは誰……?」

しかし、答えは見つからない。何より恐ろしいのは、手紙の内容を信じる貴族が増えていることだった。



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その日の午後、エリナは旧友のリリアと話をするために面会の場を設けた。リリアはエリナが幼い頃から信頼を寄せている数少ない友人であり、婚約破棄の件についても心配して連絡をくれていた。


「エリナ、大丈夫?突然の婚約破棄だなんて、信じられないわ。」

リリアは同情の色を浮かべながらも、どこかぎこちない表情をしていた。


「ありがとう、リリア。でも、私、本当に何もしていないの。ただ、証拠が次から次へと出てきて……誰も私を信じてくれない。」

エリナの声は震え、肩を落とす姿には疲労の色が濃かった。


リリアは静かに頷いたが、少しためらいながらこう切り出した。

「実は、私も少し気になることがあるの。」


エリナはリリアの顔を見つめ、嫌な予感を覚えた。「何かあったの?」と問いかける。


「先日、私が学院に行ったときのことだけど……エリナがそこで何人かの生徒に厳しい言葉を投げかけているのを見たって話を聞いたの。」

リリアの言葉に、エリナは驚きの表情を浮かべた。


「そんなこと、していないわ!私、最近は学院に行ってすらいない!」

エリナの必死な弁解に、リリアは困ったような表情を浮かべた。


「私もそう思ってる。でも、目撃した人たちは皆、エリナだったと言っているのよ。だから、何かがおかしいと感じるの。」



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リリアとの会話の後、エリナは改めて自分の周囲で起こっていることの異常さを実感した。彼女の「行動」を見たという証言が増えている一方で、エリナ自身にはその記憶が全くない。しかも、その証言はまるで彼女を意図的に貶めるために計画されたように正確で、一貫していた。


その晩、エリナは家族と食事を共にしていたが、食卓の空気はどこか重たかった。父であるウィンチェスター侯爵は深刻そうな表情でエリナに問いかけた。


「エリナ、この話は本当なのか?お前が他の貴族に嫌がらせをしたり、不正を働いたという噂が立っている。」

侯爵の声には疑念が含まれており、それがエリナの心を締め付けた。


「父様、どうして私を信じてくださらないのですか?そんなこと、私は絶対にしていません!」

エリナは強く否定したが、侯爵は困ったように首を振った。


「噂だけならともかく、証拠とされるものがあまりに多い。私もお前を信じたいが、この状況では家族としての立場を守るためにも慎重に動かねばならない。」


エリナは絶望感に包まれた。家族すらも自分を信じきれないのだという現実が、彼女の心を深く傷つけた。



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夜、エリナは自室にこもり、昼間に見つけた証拠品や手紙を机に並べていた。それらを一つずつ確認するたびに、胸が痛くなる。誰かが自分を意図的に陥れようとしているという考えが頭をよぎったが、それが誰なのか、そしてなぜ自分が狙われているのかは全くわからない。


ふと、机の上の手鏡に目をやった。その鏡に映る自分の顔が一瞬だけ、違和感を伴って見えた気がした。


「気のせい……よね。」

エリナは自分にそう言い聞かせたが、不安は消えなかった。


翌朝、エリナは決意を固めた。

「もう誰も信じてくれなくてもいい。自分で真実を証明してみせる。」

その決意の裏には、婚約者や家族の信頼を取り戻すだけでなく、自分自身を守るという思いもあった。








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