エドワードに相談し、彼の励ましを受けたことで、レアリナの中に眠っていた行動力が目を覚ました。これまでは孤独の中で耐え忍ぶだけだったが、今度は違う。カイゼルの不正を暴き、自分自身を守るために、彼女は戦うことを決意した。
屋敷に戻ったレアリナは、さっそく証拠集めに取り掛かることにした。カイゼルの行動を裏付ける証拠を確実に揃え、彼を社会的に追い詰めるためには、徹底的な準備が必要だ。そのためには、まず彼の執務室や使用人たちが知る情報を洗い出さなければならない。
夜の静寂が訪れる中、レアリナは屋敷の廊下を足音を立てずに歩いていた。カイゼルが外出中の今が、彼の執務室を調べる絶好の機会だ。普段、彼女は執務室に立ち入ることを許されていないが、今回はそんな制約に従うつもりはなかった。
執務室の扉をそっと開けると、広々とした部屋には書類が山積みになった机と、大きな本棚が目に入った。部屋中に漂う革張りの椅子やインクの匂いが、彼女の緊張をさらに高める。
机の引き出しを一つ一つ開け、書類に目を通していく。多くの書類は日常的な取引や社交の記録だったが、その中にいくつか奇妙な記述が目に留まった。見慣れない符号やコード、そして莫大な金額が記された帳簿――それらは、カイゼルが関与している不正取引を示唆する内容だった。
「これが……証拠になる。」
レアリナは震える手でその書類を握りしめた。それは、彼女の夫が家名を汚すだけでなく、自分の私利私欲のために行動している動かぬ証拠だった。
さらに調査を進めるため、彼女は使用人たちの協力を得ることにした。しかし、カイゼルが厳しく屋敷を管理している中で、誰もが彼の命令には従順で、表立って協力を申し出る者はいなかった。それでも、彼女は一人ずつ接触し、慎重に信頼を築いていった。
まず最初に協力を申し出たのは、馬車係のフレデリックだった。彼は以前からレアリナに対して親切で、信頼のおける人物だった。ある夕方、彼女はフレデリックに話しかけた。
「フレデリック、あなたにお願いがあるの。カイゼル様が何をしているのか、もう少し詳しく知りたいの。」
彼は一瞬戸惑った表情を見せたが、やがて小さく頷いた。
「奥様、私にできることなら協力いたします。しかし、旦那様に気づかれるのは避けたいのです。」
「大丈夫、私が責任を持ちます。だから、何か分かったことがあれば教えてちょうだい。」
彼の協力を得たことで、レアリナはカイゼルの行動についてさらに詳細な情報を手に入れることができた。彼が社交場で密かに行っている取引や、その裏にある違法な活動の数々が明らかになり始めた。
次に、レアリナは召使いたちの中で比較的若く、屋敷での噂に敏感なメイドたちに目を付けた。彼女たちはカイゼルの動向について小さな断片的な情報を持っており、それを組み合わせることで全体像を掴むことができた。
「旦那様は、夜遅くになると書類を隠し持ってどこかへ出かけています。」
「社交場から戻られるとき、いつも緊張した顔をしていらっしゃるんです。」
「奥様には申し訳ないのですが、私たちも何かおかしいと思っていました……。」
彼女たちの証言を丁寧にまとめることで、カイゼルが不正な活動を行っていることを裏付ける情報がさらに増えていった。
証拠集めを進める中で、レアリナは次第に確信を深めていった。夫が行っているのは、単なる貴族間の取引ではなく、明らかに法律を犯す犯罪行為だ。そして、その行為が自分や家名に及ぼす影響は計り知れない。
「これ以上、彼の好き勝手にはさせない……。」
自室に戻り、彼女は集めた証拠を整理しながら小さく呟いた。その言葉には、怒りと決意が込められていた。
証拠が揃うにつれ、彼女の計画は次第に具体性を帯びてきた。エドワードとの連絡を密にし、彼に書類の内容を精査してもらうことで、法的に有効な証拠を確保した。エドワードからは、「これなら十分に彼を追い詰められる」という太鼓判を押された。
「これで終わらせないと。」
レアリナは、これまで受け入れるしかなかった生活から脱却するため、自ら行動を起こす覚悟を固めた。彼女の行動は、単なる復讐ではない。自分の人生を取り戻すため、そして不正を許さないための戦いなのだ。
こうして、レアリナの戦いの舞台は徐々に整えられていった。これまでの彼女とは違う、自分の意志で未来を切り開こうとする強い姿勢が、彼女の中で確かに芽生えていた。