豪華なシャンデリアが輝く社交パーティの会場は、貴族たちの笑い声と談笑で賑わっていた。王国中から集まった名士たちが、美しく着飾りながら、その場の雰囲気を楽しんでいる。華やかな舞台であるこの場は、貴族としての地位や権威を誇示するための絶好の場所だった。
その中で、レアリナは静かに自分の立ち位置を確認していた。彼女が今日ここに来た理由は、表向きには「夫人としての社交の義務を果たすため」だ。しかし、心の中では全く別の目的を抱えていた――夫カイゼルの不正を暴き、公の場で彼を追い詰めることだ。
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会場に到着したとき、カイゼルは既に別の貴族たちと談笑していた。彼の振る舞いはいつも通り冷静で、どこか余裕さえ感じさせるものだった。その姿を見るだけで、レアリナの胸に怒りがこみ上げてきた。
(この場でも、彼は自分の不正を隠し通せると思っているのね……。)
彼女は息を整え、緊張を抑えながら自分の計画を頭の中で確認した。
レアリナの手には、これまでフレデリックや協力者たちが集めた数々の証拠が揃っている。違法取引に関わる文書、カイゼルの署名入りの契約書、そして彼が関与した人身売買の詳細――すべてが揃った今、この場を使って一気に公表するしかない。
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宴もたけなわとなり、貴族たちが注目を集めるダンスの時間が始まった。その瞬間、レアリナは意を決して会場中央へと歩み出た。彼女の姿に気づいた人々が次第にざわめき始める。
「レアリナ夫人、どうなさいました?」
幾人かが声をかけたが、彼女はそれを無視し、声を張り上げた。
「皆様、少しお時間をいただきたいのです。」
その声に、会場が静まり返った。全員の視線が彼女に集中する中、レアリナは毅然とした態度で話し始めた。
「今日は、皆様にどうしてもお伝えしなければならないことがあります。それは――カイゼル・アルトリウス伯爵が行っている不正についてです。」
その瞬間、会場は一瞬で凍りついたように静まり返った。次いで、あちこちから小声でのざわめきが広がった。
「不正ですって?」「アルトリウス伯爵が?」
貴族たちは一様に驚きの表情を浮かべ、何が始まるのかと注目している。
カイゼルもまた、その場で硬直していた。彼は一瞬だけ動揺したように見えたが、すぐに冷静さを取り戻し、冷ややかな声で言った。
「レアリナ、一体何を言い出すつもりだ?そんな根拠のない話で、場を混乱させる気か?」
彼の挑発にも、レアリナは怯まなかった。
「根拠なら、十分に揃っています。」
そう言って、彼女は懐から数枚の文書を取り出した。それはカイゼルの署名入りの取引記録や、違法な活動に関する詳細な証拠だった。
「これらの文書には、あなたが秘密の社交場で行ってきた取引の内容が記されています。高額な宝石の密輸、不正に徴収した税金の隠匿、そして……人身売買。」
その言葉に、会場は再びざわめき始めた。貴族たちは顔を見合わせ、信じられないという表情を浮かべている。
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カイゼルは顔を引きつらせながら、必死に取り繕おうとした。
「そんなもの、捏造に決まっている。お前がどこかで仕入れた偽物だろう。」
しかし、レアリナは揺るがなかった。
「それなら、この場で専門家を呼び、文書の真偽を確認してもらいましょうか?」
その強い言葉に、カイゼルは一瞬言葉を失った。彼は追い詰められた動物のように目を泳がせながらも、なお強気を装おうとした。
「この女は狂っている!自分の立場を分かっていないのか?」
彼の怒声が響いたが、周囲の貴族たちは冷ややかな視線を彼に向けていた。
「では、どう説明するのですか?」と、別の貴族が声を上げた。「これほど詳細な証拠が揃っている以上、黙っているわけにはいかない。」
カイゼルは沈黙した。彼が反論すればするほど、状況は彼にとって不利になるだけだった。そして、彼が沈黙を貫いたことで、レアリナの告発が真実であるという確信が、貴族たちの中に広がり始めた。
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告発を終えたレアリナは、深呼吸をして会場を見渡した。彼女に注がれる視線は、驚きや戸惑いだけでなく、敬意さえ感じさせるものだった。彼女が勇気を振り絞り、この場で真実を明らかにしたことで、多くの人々が彼女を見直したのだ。
一方で、カイゼルは完全に追い詰められ、険しい顔つきでその場を後にした。その背中を見送りながら、レアリナは心の中で呟いた。
(これが、彼の隠していた真実。そして、私が手にした自由への第一歩。)
しかし、彼女の戦いはまだ終わっていない。この告発が引き起こす波紋は、さらに大きなものになることを、彼女は既に理解していたのだった。