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第13話 真実の代償2: カイゼルの転落

 レアリナが社交パーティの場でカイゼルの不正を暴露した瞬間、会場には衝撃の波が広がった。彼の不正を示す数々の証拠が彼女の手に握られており、それを堂々と公開したことで、貴族たちの間にざわめきが起こった。


 しかし、最初に口を開いたのはカイゼルだった。動揺を隠しながらも冷静を装い、彼はレアリナを非難し始めた。

「これは全くの虚偽だ!この女は妄想に取り憑かれ、私を貶めようとしているだけだ!」


 その声には怒りと焦りが混じっていたが、彼の言葉に耳を傾ける者はほとんどいなかった。レアリナの持つ証拠が、あまりにも具体的で説得力がありすぎたのだ。


 レアリナは動じることなく、証拠の一つを掲げて説明を始めた。

「こちらは、カイゼルが秘密の社交場で行った取引記録です。署名と印章は間違いなくカイゼルのもの。ここには、高額な宝石の密輸、不正な税金の隠匿、そして――人身売買の記録が含まれています。」


 その言葉に会場は再びざわついた。貴族たちは顔を見合わせ、困惑と驚きの表情を浮かべている。中には、「まさか……」と呟く者もいた。


 さらに、レアリナは続けた。

「これだけではありません。他にも複数の被害者がいます。彼らの証言を集めた書類もここにあります。」


 そう言うと、クラリッサやマルグリットたちが一歩前に出て、証言を始めた。彼女たちは震える声ながらも、カイゼルによってどのような被害を受けたのかを語った。彼女たちの言葉は真実味を帯びており、それを聞いた貴族たちの視線は、次第にカイゼルに向けられる非難の色を強めていった。


 カイゼルは必死に反論しようとしたが、貴族たちの視線が冷ややかになっていくにつれ、次第に言葉を失っていった。

「これらは捏造だ!証拠なんていくらでも作れる!」

 彼の叫びに、エドワードが冷静に応じた。

「捏造かどうかは、専門家による検証を依頼すればすぐに分かることです。もちろん、カイゼル様も検証に立ち会うことを拒否しないですよね?」


 その言葉に、カイゼルは返す言葉を失った。検証を拒否すれば不正を認めることと同義になる。だが、検証を受ければ自分の罪が明らかになる。彼は完全に追い詰められていた。


 その場にいた貴族の一人が口を開いた。彼は社交界で大きな影響力を持つ侯爵であり、その発言は重みを持つ。

「カイゼル・アルトリウス伯爵、これほどの証拠が揃っている以上、弁明の余地はないように思えるが?」


 その問いにカイゼルは言葉を詰まらせ、ただ険しい表情で侯爵を睨みつけるだけだった。続けて、別の貴族が声を上げた。

「アルトリウス伯爵の不正が本当なら、貴族社会全体の信用問題になる。我々としても、厳正な調査を求めるべきだ。」


 その発言が引き金となり、次々と非難の声が上がり始めた。

「我々の名誉を汚す行為を見過ごすわけにはいかない!」

「彼がしてきたことを徹底的に調べるべきだ!」


 会場は完全にカイゼルに対する非難の嵐となった。彼の味方をする者は一人もいない。


 その後、カイゼルは貴族たちによる圧力を受け、全ての役職から解任されることが決定した。また、彼の屋敷や財産は差し押さえられ、調査のために厳しい監視下に置かれることとなった。


 貴族社会の頂点を歩んでいた男が、一瞬にして転落する様子を目の当たりにし、レアリナは複雑な感情を抱いた。これまで彼に苦しめられてきた怒りや悲しみが解消されるわけではないが、自分がここまで行動してきた結果が実を結んだことに、少しだけ安堵を覚えた。


「これで終わりではないわ。まだ、やるべきことが残っている。」

 レアリナは小さく呟いた。彼の転落は、彼女の戦いの終わりではなく、新たな始まりだった。彼が完全に裁かれ、自分が本当の自由を手に入れるまで、まだ道は続いているのだ。


 カイゼルはその夜、会場を後にすることすら許されず、調査のための拘束を命じられた。その背中を見送るレアリナの目には、決して揺るがない決意が宿っていた。


「あなたの悪事は、もう隠せない。」

 彼女の声は低かったが、その言葉は会場の誰もが聞き取ることができた。そして、それがカイゼルにとって、自らの終焉を示す言葉であることは明白だった。


 こうして、カイゼル・アルトリウスの転落は、貴族社会全体を震撼させる事件となり、レアリナの勝利を印象づけるものとなった。


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