カイゼルが差し向けた刺客の一件を乗り越えたレアリナは、改めて自分の決意を胸に刻み込んだ。この戦いは彼女にとっての試練であり、同時に自らの未来を切り開くための革命だった。そして、最終的な目標である「カイゼルとの完全な決別」を果たすため、彼女は最後の一歩を踏み出す準備を進めていた。
エドワードと仲間たちの支援を受けながら、レアリナは正式に離婚を申し立てる手続きを進めていた。カイゼルの不正を暴いたことで、彼の地位は完全に失墜しており、貴族社会からも孤立していた。そのため、彼が離婚を拒否する術はほとんど残されていなかった。
貴族社会では、離婚は家の名誉を損ねる行為として忌避されがちだったが、今回の件では事情が異なっていた。カイゼルの不正が公に知れ渡り、彼の犯罪行為が王国全体の信用を揺るがすほどの問題となっていたからだ。王室や上級貴族たちも、この問題を早急に解決する必要性を感じていた。
数日後、王国の裁定所で正式な離婚手続きが行われた。裁定所には、レアリナとエドワード、そして王国の高官たちが出席していた。一方、カイゼルは窓のない薄暗い一室から護衛付きで連行されてきた。
かつては誇り高く社交界の中心にいた男が、今ではみすぼらしい姿で俯いている。その様子を目の当たりにしたレアリナは、複雑な感情を抱いた。彼に対する怒りと憎しみ、そしてほんのわずかに残った虚しさが胸を締め付ける。
裁定官が手続きを進める中、カイゼルは最後まで不満そうな表情を浮かべていたが、何も反論することはできなかった。これまでの不正の数々が記録に残され、多くの証言が彼を糾弾していた。さらに、レアリナが提出した離婚請求の理由も、あまりにも正当だった。
「以上の状況を考慮し、本裁定所はレアリナ・アルトリウス夫人の離婚を認める。また、カイゼル・アルトリウスには、彼女への財産分与および慰謝料の支払いを命じる。」
裁定官が判決を言い渡した瞬間、レアリナの心は静かに解放されていくように感じた。
裁定所を後にしたレアリナは、深く息を吸い込んだ。空は快晴で、冷たい冬の風が彼女の頬を撫でた。これまでの重圧から解放された彼女の胸には、初めて「自由」を実感する感覚が広がっていた。
エドワードが彼女に近づき、柔らかく微笑んだ。
「お疲れ様。これで君はようやく新しい一歩を踏み出せる。」
その言葉に、レアリナは小さく頷いた。
「本当に……ありがとう、エドワード。あなたがいなければ、私はここまで来られなかったわ。」
エドワードは少し照れくさそうに肩をすくめた。
「僕は君の力になれたことが嬉しいよ。でも、ここからが本当のスタートだ。これから君がどんな人生を歩むのか、楽しみにしている。」
その言葉に、レアリナは少しだけ微笑んだ。これまでの戦いは苦しく、孤独で、何度も挫けそうになった。それでも、彼女は自分の意思で立ち上がり、未来を掴み取るために行動した。そして、今やその努力が実を結び、新しい人生が彼女を待っている。
それから数週間後、レアリナは新たな生活を始めていた。貴族の生活から離れ、穏やかで静かな田舎の一軒家で過ごす日々。華やかな社交界から遠ざかったこの生活は、彼女にとって真に求めていた平和だった。
朝日が差し込む部屋で紅茶を飲みながら、レアリナは未来のことを考えていた。これからどう生きていくのか、自分の力でどんな世界を作り上げるのか――それを考えるたびに、心の中に希望が湧いてくる。
そこへ、エドワードから手紙が届いた。内容は、彼が新たに手掛ける社会改革のプロジェクトへの参加を求めるものだった。カイゼルの不正を暴いたことで、エドワードとレアリナの行動は貴族社会に大きな影響を与えており、今後の改革にも貢献できる可能性があった。
レアリナは手紙を読み終え、静かに微笑んだ。
「私にも、まだやるべきことがあるのね。」
そう呟いた彼女の瞳には、これまでとは違う、力強い光が宿っていた。
こうして、レアリナはカイゼルとの過去を完全に断ち切り、新しい人生を歩むための第一歩を踏み出した。過去の苦しみや悲しみは、彼女を強くし、成長させた。そして、彼女はこれからも自分の力で未来を切り開いていくだろう。
自由を得たその日が、レアリナにとって本当の意味での人生の始まりだった。