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第7話 2-3:クラリッサの陰謀

リーネのアクセサリー展示会は、予想以上の成功を収めた。準備していた商品のほとんどが売れ、顧客からの反響も上々だった。展示会の数日後、貴族たちの間で「セレーネ令嬢のアクセサリー」は話題となり、リーネの名は社交界で新たな意味を持って語られ始めていた。


しかし、その成功を快く思わない人物がいた――アルトゥールの新しい愛人であり、リーネの婚約破棄の原因となったクラリッサだった。



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クラリッサは平民出身ながら、持ち前の美貌と巧みな話術でアルトゥールを虜にしていた。さらに、彼女は自分の地位を確立するため、周囲を利用し、リーネの評判を落とそうと暗躍していた。


「リーネ・セレーネの成功?馬鹿げた話ね。」

クラリッサは冷たい笑みを浮かべながら、取り巻きの貴族夫人たちにそう言い放った。

「彼女のような失敗した婚約者が、商売なんて始めるなんて恥ずかしい限りよ。そんなものが続くと思う?」


その言葉に、周囲の夫人たちは困惑した表情を見せた。リーネのアクセサリーは、実際に高い評価を得ており、クラリッサの悪意ある発言をそのまま受け入れる者は少なかった。しかし、クラリッサは気にする様子もなく続けた。


「それに、あの商業ギルドのルーカス・エヴァンス。彼女があの男に媚びを売っているなんて話も聞いたわ。まったく、浅ましいと思わない?」


「まあ……」

夫人たちの中には曖昧に頷く者もいたが、多くはその場を離れた。クラリッサの言葉には毒があり、それを軽々しく口にする彼女の態度に辟易していたのだ。



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一方、リーネは展示会の成功を祝いつつも、次のステップに向けて準備を進めていた。ルーカスと共に新たな商品ラインの開発を考え、さらに広い層にアプローチできる商品を企画していた。彼女の目的は、単なる利益の追求ではなく、アクセサリーを通じて自分の感性と努力を認めてもらうことだった。


「リーネ様、このデザイン案はいかがでしょうか?」

ルーカスが新しい試作品のスケッチを手渡すと、リーネは熱心に目を通した。


「素晴らしいですわ、ルーカス様。この形なら、より多くの人々に魅力を感じてもらえると思います。」

彼女の目は自信に満ちていた。婚約破棄の痛みを乗り越えた彼女は、ただの貴族令嬢ではなく、自分の力で未来を切り開こうとする一人の女性へと変わりつつあった。



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しかし、その頃からリーネの耳に、奇妙な噂が聞こえてくるようになった。


「リーネ様が、商業ギルドの会長を利用しているらしいわ。」

「新しい商品も、実は全て彼のアイデアなんですって。」


それらの噂は、明らかにリーネの評判を貶めるためのものだった。リーネは最初、それを無視しようとした。しかし、噂が広がるにつれて、展示会で新たに商品を買いたいという申し出が減少し始めたのだ。


「どうしてこんなことに……。」

リーネは自室で一人、胸の中に広がる不安と苛立ちを抱えていた。


その時、扉がノックされ、侍女のマリアが現れた。

「リーネ様、大変です。」


「どうしたの、マリア?」

リーネは顔を上げた。マリアの表情には緊張が走っていた。


「クラリッサ様が……公然とリーネ様の悪評を広めていらっしゃいます。」


その言葉に、リーネの手が拳を作る。彼女の婚約破棄の原因となったクラリッサが、今度は自分の成功を妨害しようとしている。怒りが胸の奥から湧き上がる一方で、冷静に状況を分析しようと努めた。



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翌日、リーネはルーカスに相談するため、商業ギルドのオフィスを訪れた。ルーカスは彼女を迎え入れ、リーネの話を聞きながら静かに頷いた。


「クラリッサが噂を流しているのですね。」

「ええ、明らかに彼女が原因です。これ以上、私の評判が下がれば、商売にも影響が出るでしょう。」

リーネの声には焦りが感じられた。


「大丈夫です、リーネ様。」

ルーカスは優しく微笑みながら答えた。

「このような状況には、冷静かつ確実に対処する必要があります。私が知る限り、クラリッサのような人物は感情に基づいて行動しがちです。それを利用しましょう。」


「具体的には、どうするつもりですか?」

リーネは真剣な眼差しでルーカスを見つめた。


「まずは彼女の行動を監視します。そして、彼女がリーネ様の評判を落とすために不正な手段を使っている証拠を集めましょう。その証拠が揃えば、社交界で公然と彼女の行為を暴露することができます。」


ルーカスの提案に、リーネは少しだけ安堵した。自分一人ではどうすることもできないと思っていたが、彼の支えがあることで希望が見えてきた。


「わかりました、ルーカス様。お力をお借りします。」

リーネはそう答え、再び立ち上がる決意を胸に秘めた。



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こうして、リーネはクラリッサの陰謀に対抗するための行動を開始した。これ以上、誰かに自分の人生を邪魔されることは許されない。彼女の逆襲の幕が、ここから静かに上がるのだった――。



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