クラリッサの陰謀を知ったリーネは、冷静に対策を進めていた。彼女はルーカス・エヴァンスの助けを借り、クラリッサが流した悪評を覆すだけでなく、さらに自分の名声を高めるための計画を立てていた。
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リーネがまず行ったのは、自らの作品と取り組みの透明性を高めることだった。彼女はアクセサリーのデザインに込めた思いや、試作品が完成するまでの過程を社交界の信頼できる貴族たちに直接説明する場を設けた。これにはルーカスも同行し、彼女の真剣さと努力をサポートした。
その日の昼下がり、侯爵家の応接室にはリーネが招待した貴族夫人たちが集まっていた。彼女はスケッチブックや試作品を持ち込み、一つひとつ丁寧に説明した。
「このデザインには、花びらが風に舞う様子を表現しました。女性らしさと同時に、内面の強さも表現したかったのです。」
リーネの真剣な語り口に、貴族夫人たちは次第に惹き込まれていった。
「まあ、リーネ様の作品にはそんな深い意味が込められていたのですね。」
「これほど繊細で美しいデザインは、確かに他では見たことがありません。」
夫人たちの反応は好意的だった。その言葉を聞いたリーネは、少しだけ緊張を緩めた。
「実際にこの試作品をご覧いただけますか?」
リーネが差し出したアクセサリーを手に取った夫人たちは、その美しさと技巧に感嘆の声を上げた。
「これほどのものを作り上げるのは、ただの趣味では無理ですわね。」
「商業ギルドの協力があったとはいえ、これは間違いなくリーネ様の才能の賜物ですわ。」
こうして、リーネの作品が彼女自身の努力の結果であることが徐々に認められていった。
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その後、リーネはさらに踏み込んだ行動を取った。それは、クラリッサが流している噂に対する反撃だった。ルーカスの手配で、クラリッサが悪評を流すために使った手口の証拠が集まりつつあった。特に、買収した噂話好きの下級貴族や、金銭で動かされた使用人の証言が決め手となるだろう。
「ルーカス様、この証拠をどのように使えばよいでしょうか?」
リーネはルーカスに尋ねた。
「これらの証拠を元に、クラリッサの行いを社交界で公然と指摘します。しかし、その場は慎重に選ぶ必要があります。誰もが注目する場で、堂々と正義を示さなければ逆効果になる。」
「誰もが注目する場……。」
リーネは考え込み、ふと顔を上げた。
「次の夜会ですね。」
ルーカスは満足げに頷いた。
「その通りです。夜会は絶好の機会です。特に、アルトゥール公爵家が主催するものであれば、彼女を追い詰めるには最適の場でしょう。」
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夜会当日、リーネはいつも以上に美しく装い、会場に足を踏み入れた。その姿は堂々としており、彼女の新たな始まりを象徴しているかのようだった。
会場には多くの貴族が集まっていたが、その中にはアルトゥールとクラリッサの姿もあった。クラリッサはリーネを見つけると、嘲笑を浮かべながら取り巻きと何やら話していた。しかし、リーネはその視線を完全に無視し、毅然とした態度で歩みを進めた。
「リーネ様、いらっしゃったのですね。」
数人の貴族夫人が彼女に声をかけてきた。彼女たちは展示会に来てくれた面々で、リーネの努力を知る者たちだった。
「ええ、今日はとても楽しみにしていました。」
リーネは微笑みながら答えたが、その胸の内には別の決意があった。この夜会が、自分の正当性を証明し、クラリッサの悪行を暴く場となることを彼女は確信していた。
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夜会が中盤に差し掛かった頃、ルーカスがリーネに近づき、耳打ちした。
「準備は整いました。いつでも始められます。」
リーネは小さく頷き、会場中央に向かって歩みを進めた。その姿に、周囲の注目が集まる。会場が静まり返る中、彼女は口を開いた。
「本日は皆様にお伝えしたいことがございます。」
その声は静かでありながらも、全ての人々に届く力強さを持っていた。
「ここ数週間、私に関する不名誉な噂が広がっていることをご存知かと思います。その噂について、私は沈黙しておりましたが、今ここで真実をお伝えすることにしました。」
リーネは集めた証拠を提示し、クラリッサが悪評を広めるために使った手口を一つひとつ説明した。その内容は具体的で、誤解の余地がなかった。会場にいる誰もが、リーネの話に耳を傾け、クラリッサの顔色が青ざめていくのを目の当たりにした。
「これが私に関する噂の真実です。そして、このような行為を行った人物が誰であるか――皆様には、すでにお察しのことかと思います。」
その言葉に、会場中の視線がクラリッサに向けられた。彼女は震えながら否定しようとしたが、すでに誰も彼女の言葉を信じていなかった。
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リーネの行動は大成功を収めた。彼女はクラリッサの陰謀を暴いただけでなく、貴族社会での信頼と名声を取り戻すことに成功した。アルトゥールさえも、クラリッサから距離を置くようになり、彼女の失墜は明らかだった。
夜会が終わり、リーネはルーカスと共に馬車に乗り込んだ。彼女は窓から夜空を見上げ、静かに微笑んだ。
「これで少しは前に進めたでしょうか。」
彼女の言葉に、ルーカスは柔らかな声で答えた。
「いいえ、リーネ様。これが、あなたの新しい人生の始まりです。」
馬車が動き出し、リーネの未来へと向かう旅路が続いていった――。
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