クラリッサを夜会で追い詰め、リーネの名誉は確かに回復した。しかし、リーネはすぐに次の課題に直面することとなった。クラリッサの行動は単なる嫉妬心や意地悪からくるものではなく、さらに大きな陰謀の一端であることが明らかになったからだ。
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数日後、リーネは商業ギルドの会長ルーカス・エヴァンスのオフィスを訪れた。夜会での成功を喜び合った二人だったが、ルーカスは厳しい表情で彼女を迎えた。
「リーネ様、少しお話ししたいことがあります。」
彼の声には、ただ事ではない雰囲気が漂っていた。
「どうしたのですか、ルーカス様?」
リーネは座ったまま問いかけた。
ルーカスは机に置かれた書類を取り上げ、彼女の前に差し出した。
「これを見てください。先日、クラリッサの行動を調査していた際に手に入れたものです。」
リーネはその書類を手に取り、内容を確認した。それはクラリッサが関与している複数の取引記録であり、彼女がアルトゥールの資金を利用して貴族たちに賄賂を送っていた証拠だった。
「これは……一体何のために?」
リーネの眉がひそめられた。クラリッサの行動が単なる個人的な利益のためだけではないことが見えてきた。
「彼女は、アルトゥールを操りつつ、セレーネ家やその他の有力な貴族を失墜させようとしているのです。」
ルーカスは静かに説明した。
「その背後には、彼女を支援する何者かがいる可能性があります。」
「背後にいる者……?」
リーネの胸に寒気が走った。クラリッサの行動の影に、さらに大きな陰謀が潜んでいるという可能性が浮かび上がった。
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リーネはすぐに行動を起こすことを決めた。クラリッサの背後関係を調べるため、彼女は自らの人脈を駆使して情報を集めることにした。まずは信頼できる貴族夫人や知人たちに接触し、クラリッサの過去や周囲の動きを探り始めた。
その中で浮かび上がったのは、クラリッサが頻繁に接触している商人の名前だった。彼は表向きは正当な取引をしているように見えるが、裏では不正な手段で利益を得ているという噂があった。
「この商人……確か、エドガーという名だったかしら。」
リーネは名前をメモし、ルーカスに報告した。
「その名前、聞き覚えがあります。」
ルーカスは真剣な表情で頷いた。
「彼は商業ギルドからも何度か警告を受けている人物です。しかし、確たる証拠がなく、これまで追及を逃れてきました。」
「では、彼を調査する必要がありますね。」
リーネの声には決意が込められていた。
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翌日、リーネとルーカスはエドガーの活動を探るための計画を立てた。ルーカスの部下が彼の取引先や行動を監視し、不正の証拠を掴むために動き出した。一方、リーネは社交界で彼の名前を出し、彼に関わる人々から情報を引き出そうとした。
その結果、エドガーがいくつかの貴族と密会を繰り返していることが判明した。特に、アルトゥールの公爵家の関係者とも接触があったという情報は、リーネにとって衝撃的だった。
「つまり、エドガーはアルトゥールの資金をクラリッサを通じて不正に利用しているということでしょうか。」
リーネはルーカスに確認を求めた。
「その可能性が高いです。そして、それが何の目的で行われているのかを突き止める必要があります。」
ルーカスは冷静に答えた。
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リーネは次第に、この陰謀が単なる金銭の問題ではなく、貴族社会全体を揺るがす可能性を秘めていることに気づき始めた。クラリッサの背後には、さらに大きな権力が関与しているかもしれない。それが何を目論んでいるのかを明らかにしなければ、リーネ自身の未来だけでなく、彼女の家族や支持者たちも危険にさらされる可能性があった。
「私は、この陰謀を見過ごすわけにはいきません。」
リーネの言葉には強い決意が込められていた。
ルーカスは微笑みながら彼女を見つめた。
「リーネ様なら、きっとこの問題を解決できるはずです。私も全力でサポートします。」
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その夜、リーネは自室で静かに考え込んでいた。手元にはエドガーに関する情報が整理されているメモがあった。彼女はそれをじっと見つめながら、自分の役割と責任について思いを巡らせていた。
「私がやらなければ、誰もこの問題を解決できない。」
彼女は心の中でそう呟き、立ち上がった。
リーネの挑戦は、まだ始まったばかりだ。この陰謀を暴き、真実を明らかにするため、彼女はさらに深い闇へと足を踏み入れる覚悟を決めていた。
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