リーネとルーカスがクラリッサの背後関係を追い始めて数日が経過した。エドガーという名の商人が、アルトゥール公爵家の資金を使って密かに貴族たちに賄賂を送っていることは明らかだった。しかし、それだけでは全貌を掴むには不十分だった。リーネたちは、クラリッサが仕掛けた陰謀の全てを暴き、社交界で公にするための確固たる証拠を集める必要があった。
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リーネは情報収集のため、自身の社交界での人脈を活用することにした。貴族令嬢としての地位と信頼を活かし、エドガーやクラリッサの周辺で噂されていることを探り始めた。彼女は、まず気心の知れた夫人たちを訪ね、会話の中で慎重に情報を引き出した。
「最近、クラリッサ様の周辺で何か興味深い噂をお聞きになっていませんか?」
リーネが微笑みながら尋ねると、夫人の一人が顔を曇らせた。
「実は、少し奇妙な話を聞きましたわ。クラリッサ様が、エドガーという商人を通じて一部の貴族に資金援助をしているとか。その資金がどこから来ているのかは分かりませんけれど……。」
「資金援助ですか?」
リーネは驚きつつも、冷静を装った。
「ええ。援助を受けた貴族たちは、クラリッサ様に恩義を感じている様子でした。何か企んでいるのではないかと心配ですわ。」
その話を聞いたリーネは内心で確信を深めた。クラリッサが、アルトゥールの地位や資産を利用して、貴族社会に影響を与えようとしているのは間違いなかった。
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一方で、ルーカスの部下たちはエドガーの動きを監視していた。彼らは、エドガーが夜遅くに特定の屋敷を訪れていることを突き止めた。その屋敷は、アルトゥールの公爵家と密接な関係を持つ下級貴族のものだった。
「エドガーはその屋敷で、何度も密談をしているようです。」
ルーカスの部下が報告した。
「ただの商談ではないでしょう。何か大きな計画が進行している可能性があります。」
「リーネ様、次の一手はどうされますか?」
ルーカスが問いかけると、リーネは深く考え込んだ。
「エドガーとその屋敷の関係を明らかにする必要がありますね。」
彼女の声には揺るぎない決意があった。
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リーネたちは次の作戦として、エドガーの密談現場を押さえることを計画した。ルーカスの部下がエドガーの動向を追い、その屋敷での密会が予定されている夜に、リーネとルーカスも慎重に行動を起こした。
その夜、二人は屋敷の近くに馬車を停め、密談の内容を記録するための準備を整えた。リーネは暗い中で緊張に包まれながら、ルーカスと小声で会話を交わした。
「このような方法で証拠を集めるのは初めてですわ。」
リーネがつぶやくと、ルーカスは静かに微笑んだ。
「リーネ様、ご安心ください。私たちは正しいことをしています。そして、あなたの勇気が全てを変える鍵になります。」
その言葉に、リーネは少しだけ心が軽くなった。
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屋敷の中では、エドガーと下級貴族たちが集まっていた。リーネとルーカスは窓越しにその様子をうかがい、彼らの会話を注意深く聞き取った。会話の中には、クラリッサの名前が何度も登場した。
「クラリッサ様の計画は順調に進んでいます。」
「アルトゥール公爵が全ての資金を提供してくださるおかげで、こちらも動きやすい。」
その言葉を聞いたリーネの心に怒りが湧き上がった。クラリッサがアルトゥールを完全に操り、貴族社会全体に影響を及ぼす陰謀を進めているのは明らかだった。
さらに、彼らの会話から、クラリッサが次に狙っているのはセレーネ家の資産であることが判明した。クラリッサはリーネを婚約破棄で追い落としただけで満足せず、彼女の家族の財産まで奪おうとしていたのだ。
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全ての情報を記録したリーネとルーカスは、その場を後にした。馬車に乗り込んだリーネは、怒りと悔しさで胸を震わせながらルーカスに話しかけた。
「クラリッサが私たちの家族を狙っているなんて……許せません。」
「リーネ様、冷静にいきましょう。」
ルーカスは彼女を落ち着かせるように言った。
「今は感情に流される時ではありません。彼女を追い詰めるための次の一手を考えましょう。」
リーネは深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと努めた。
「そうですね。この情報を元に、さらに証拠を集めて、クラリッサを完全に追い詰めましょう。」
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こうしてリーネたちは、クラリッサとその背後にいる陰謀を暴くための準備を進めた。セレーネ家の名誉を守り、貴族社会に真実を示すため、リーネの戦いはさらに激しさを増していくのだった――。