クラリッサの陰謀の全貌が明らかになるにつれ、リーネは彼女を社交界で完全に追い詰める準備を整えていた。アルトゥールとの対話を経て、リーネはもはや迷いがなかった。彼女の目標は、クラリッサをその悪行ごと貴族社会から排除し、セレーネ家の名誉を守ることだった。
その決戦の場として選ばれたのは、王都で行われる一大夜会――貴族たちが集まる最も格式高い社交の場だった。
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夜会当日、リーネはこれまで以上に美しく装い、会場に姿を現した。銀糸で刺繍された淡い青のドレスに身を包み、宝石のように輝く瞳で周囲を見渡す彼女の姿は、誰もが息を呑むほどだった。
「リーネ様、いよいよですね。」
ルーカスが隣で静かに言った。
「ええ、全てを終わらせる時が来ました。」
リーネの声は力強く、彼女の決意を感じさせた。
彼女が会場を歩くたびに、貴族たちの注目が集まった。噂が広まりつつあったクラリッサの不正行為について、リーネが何かを明らかにするのではないかと誰もが期待していた。
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会場の中央には、クラリッサとアルトゥールの姿があった。クラリッサはこれまで通り優雅な笑みを浮かべ、周囲の人々と談笑していたが、リーネが近づくにつれて、その笑顔は次第に硬くなっていった。
「リーネ様、ご機嫌いかがですか?」
クラリッサが笑顔を装って声をかけてきた。
「ええ、とても良い夜ですわ。」
リーネは冷ややかに答えた。
「今夜は特別な発表をさせていただこうと思っております。」
その言葉に、クラリッサの瞳がわずかに揺れた。周囲の貴族たちもざわめき始め、リーネがこれから何を語るのか注目し始めた。
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やがて夜会のクライマックスであるスピーチの時間が訪れた。主催者がリーネに発言の場を与えると、彼女は堂々と中央に立った。彼女の姿に、会場は静まり返った。
「本日は、皆様に重要な真実をお伝えするため、この場をお借りいたします。」
リーネの声は、全ての人々に届くように力強く響いた。
「ここ数ヶ月間、貴族社会において、ある方が不正行為を行い、多くの方々を欺いている事実が明らかになりました。」
リーネの言葉に、会場中がさらにざわつき始めた。その中にはクラリッサもいたが、彼女は必死に平静を装おうとしていた。
「この方は、アルトゥール公爵家の資金を利用し、一部の貴族に賄賂を送り、私を含むセレーネ家の名誉を傷つける行為を行ってきました。」
リーネは、これまでに集めた証拠を一枚ずつ提示し始めた。エドガーとの取引記録、賄賂を受け取った貴族の証言、さらにはアルトゥールの資金が流用されていることを示す書類――それらは全て、クラリッサが主導していたことを裏付けていた。
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「これが、私を貶めようとした人物の全ての証拠です。そして、その方とは――」
リーネはクラリッサを見据えた。
会場中の視線がクラリッサに集中した。彼女は震えながら口を開こうとしたが、言葉を出せずに立ち尽くした。周囲の貴族たちの間からは非難の声が上がり始めた。
「クラリッサ様、このような行いをしていたのですか!」
「公爵家を利用し、貴族社会を混乱させるとは……許せません!」
アルトゥールもまた、クラリッサを見つめていた。その目には、信じていた相手に裏切られたことへの怒りと失望が滲んでいた。
「クラリッサ、これは本当なのか?」
彼は震える声で問いかけた。しかし、クラリッサは何も答えられなかった。
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その場で、主催者である王家の関係者が立ち上がり、クラリッサの行為に対する正式な調査を行うことを宣言した。彼女は貴族社会からの追放がほぼ確定し、同時にエドガーもまた裁きを受けることとなった。
クラリッサが護衛に連れ出される中、リーネは深く息を吐き、静かに微笑んだ。周囲の貴族たちは彼女の行動を称賛し、次々と声をかけてきた。
「リーネ様、あなたは真の貴族としての責務を果たされましたね。」
「このような勇気ある行動を取れる方は滅多におりません。」
リーネは一つひとつ感謝の言葉を述べたが、心の中ではまだ整理しきれない感情が渦巻いていた。それは達成感とともに、新たな責任の重さを感じるものだった。
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夜会が終わり、ルーカスと共に馬車に乗り込んだリーネは、ようやく肩の力を抜くことができた。
「これで終わり……なのかしら。」
リーネが呟くと、ルーカスは穏やかに微笑んだ。
「いいえ、リーネ様。これが新たな始まりです。あなたは自分の力で貴族社会を動かしました。この経験は、さらに大きな道を切り開く糧となるでしょう。」
彼の言葉に、リーネは静かに頷いた。そして夜空を見上げ、心の中で新たな決意を固めた。
「私はもう、誰にも支配されない。」
リーネの新たな旅は、ここから本格的に始まるのだった。
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