クラリッサとの戦いを経てセレーネ家の名誉を守り、事業を成功に導いたリーネだったが、彼女の心には新たな目標が芽生えつつあった。それは、セレーネ家という枠を超え、より広い世界で自分の力を試すことだった。
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その日、リーネは庭のベンチに座り、これまでの出来事を振り返っていた。心地よい風が髪を揺らし、穏やかな午後の光が彼女を包んでいた。そんな中、ルーカスが彼女の元を訪れた。
「リーネ様、よろしいですか?」
彼は彼女の隣に腰を下ろし、穏やかな声で話しかけた。
「ルーカス様、どうぞ。」
リーネは微笑みながら彼を迎えた。
「今日は少しお話したいことがあります。」
ルーカスの表情は真剣だった。
「何でしょうか?」
リーネもまた、その真剣さに応じて姿勢を正した。
「リーネ様が手掛けている事業は、セレーネ家の名誉を回復させただけでなく、貴族社会全体に大きな影響を与えました。しかし、私は思うのです。リーネ様の力は、この国だけにとどめておくべきではない、と。」
その言葉に、リーネは驚きつつも興味を覚えた。
「どういう意味でしょうか?」
ルーカスは続けた。
「近隣諸国にも、リーネ様のような革新的な考えを求めている場所が多くあります。もしよければ、セレーネ家の事業を国外に展開することを考えてみませんか?」
リーネは目を見開いた。これまで彼女は、セレーネ家という枠組みの中で成功を目指していた。しかし、ルーカスの言葉は、彼女にさらなる可能性を示していた。
「国外に展開する……。」
リーネはその言葉を反芻しながら、未来の可能性を思い描いた。
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その夜、リーネは父ダリウスと母イリーナに相談を持ちかけた。家族との食事の後、彼女は真剣な表情で切り出した。
「父様、母様。私はこれからのことについて、少し考えていることがあります。」
ダリウスはワインのグラスを置き、娘に視線を向けた。
「何か、迷い事でもあるのか?」
「いいえ、迷っているわけではありません。ただ、私の事業を国外にも広げるべきかどうか、考えているのです。」
リーネの言葉に、ダリウスは驚いた表情を見せた。
「国外……確かにそれは大きな挑戦だな。しかし、どうしてそのような考えに至ったのだ?」
リーネはルーカスとの会話を思い出しながら答えた。
「ルーカス様が、私の力をもっと広い世界で活かすべきだと提案してくださったのです。私も、その可能性を考え始めたところです。」
母イリーナが口を開いた。
「リーネ、それはとても素晴らしい考えだと思います。ただ、その道のりは険しいものになるでしょう。それでも、あなたにはその力があると私は信じています。」
ダリウスも頷いた。
「お前がその道を進みたいのなら、我々も全力で支えるつもりだ。ただし、慎重にな。国外での展開は、国内以上に難しいことが多い。」
「ありがとうございます、父様、母様。」
リーネは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。家族の支持を得られたことで、彼女の決意はさらに強まった。
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翌日、リーネは商業ギルドの会議室でルーカスと具体的な計画について話し合っていた。机の上には地図が広げられ、近隣諸国の市場の情報が並べられていた。
「まずは、最も近い国であるカリエン公国をターゲットにしましょう。」
ルーカスが地図上の一地点を指し示した。
「カリエン公国は、文化的にも我が国と近く、私たちの商品を受け入れる素地があるはずです。」
「確かに、それなら比較的リスクが少なく済みそうですわ。」
リーネはルーカスの提案に賛同した。
さらに二人は、物流や現地の協力者について具体的な話を進め、事業の実現に向けた準備を始めた。
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リーネの決意が揺るぎないものとなったのは、その日の夕方だった。庭で散歩をしていると、領地の人々が彼女を見つけ、次々と声をかけてきた。
「リーネ様、いつもありがとうございます!」
「私たちはリーネ様を誇りに思っています。」
その言葉を聞くたびに、リーネの胸には感謝と責任感が広がった。自分が歩む道は、ただ自分のためだけではなく、多くの人々を幸せにするためのものだと感じていた。
「私は、もっと遠くへ進まなくては。」
リーネは自分自身に言い聞かせるように呟いた。
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夜、リーネはデスクに向かい、ペンを握り締めた。目の前の紙には、新たな事業計画の概要が書き連ねられていた。彼女は深呼吸をし、静かにペンを動かし始めた。
「これが、私の次なる挑戦。」
ペン先から紡がれる文字は、彼女の未来への決意を象徴していた。
こうして、リーネは新たな旅立ちへの一歩を踏み出した。それは、彼女自身の成長だけでなく、周囲の人々の生活をより豊かにするための大きな挑戦となるのだった。
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