プレア国立冒険者学園。
身分に関係なく誰でも入学できる学園では、新入生や編入性に能力チェックが実施される。
生徒たちはそれを参考に選択科目を決めるのが常だった。
筋力・敏捷などが優れていれば武術系。
知力・魔力などが優れていれば魔術系。
能力値は数値で表されるのではなく、上から順に「優」「良」「普」「劣」の4段階で評価される。
「優」はSクラス冒険者になれる可能性を秘めた能力値。
「良」ならAクラスの可能性。
「普」は最も一般的で、努力次第でBクラスぐらいまではいけるかという程度。
「劣」は平均値未満で、戦闘には不向きで頑張ってもC止まりだと言われている。
「ギャハハ! なんだお前、カス能力値かよ!」
入学時の能力チェックで、僕は結果を書いた紙をトレミーたちに見られてしまった。
筋力・敏捷・知力、僕はその3つが「劣」で、魔力は謎の「∞」。
馬鹿にされてもしょうがない能力値だった。
以来、3人からオモチャ代わりにイジメられる日々が続いている。
「戦闘に向かなくても、採集で稼げばいいんだよ。それに練習すれば下位の魔物くらいは狩れるぞ」
バラン院長はそう言ってくれた。
マイア孤児院を設立した院長先生はBクラス冒険者。
能力値は「普」で、努力して武術を極めた人だ。
僕も頑張ってCクラスを目指そうと思っていた。
でも、スバルが僕の身体に宿ったことで、能力値は激変した。
「加護と祝福を付与しておきますね。ステータスを確認して下さい」
女神リイン様が僕の身体に加護と祝福を与え、3つの能力値は「劣」→「優」に。
もとからの能力値で魔力の「∞」は、魔力が枯渇することがないという特殊な資質らしい。
それとは別にあるのは、戦闘能力値と呼ばれるもの。
物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力。
それらは数字表記になっていて、攻撃力が防御力を上回ればダメージになる。
僕はそれも低くて、スライムにダメージを与えることすらできなかった。
今は4つとも大幅に上昇して、ちょっと攻撃しただけでスライムが即死するくらいになっている。
「な……なんでお前が魔法を使えるんだ!」
「図書館の魔法書を読んで覚えたよ」
動揺して声が大きくなるスーフィーに、スバルは冷静に答えた。
「孤児院育ちのお前が、魔法文字を読めるわけないだろ!」
「どうした? なに騒いでるんだ?」
「カードは手に入れたぜ。そろそろ帰るぞ」
スーフィーがまた声を荒らげたところで、戻って来たハインドが後ろから声をかける。
今回の箱開けを担当したトレミーが、手にしたカードをヒラヒラ振ってみせた。
「ん? スーフィー、落ちこぼれで遊ぶんじゃなかったのか?」
トレミーは僕をチラッと横目で見て、スーフィーに訊く。
スライム10匹連れてきたのは、スーフィーの提案だったらしい。
僕が無傷だから怪訝に思ったようだ。
「スライムならさっき片付けを手伝ったよ。ほらこれ、魔石」
「「?!」」
スバルは平然としながら足元に散らばる10個の小さな魔石を拾い集め、掌に乗せてトレミーに差し出す。
どうやったのか見ていない2人も、証拠の魔石を見てギョッとした。