スバルの前世知識によれば、魚釣りというのはノンビリやるものらしい。
水底の岩や珊瑚が見えるほど澄んだ海に浮かぶ筏の上で、バランさんとパーティメンバー、スバルとセラフィナは釣り竿を手に海面を眺めていた。
釣り竿からのびる釣り糸の先は、海面でプカプカ漂う「浮き」を経て、水中に垂れている。
「お、きたきた」
最初にヒットしたのは、バランさんパーティメンバーのヴァルトさんが持つ釣り竿。
ヴァルトさんは、自然に関する知識が深いレンジャーという職業の人。
魚の扱いは、筏に乗ってるみんなの中で一番上手だと思う。
「よ~しよし、大人しくしろよ~」
って言いながら、ヴァルトさんは釣り竿に付いている糸巻きをゆっくり回して、釣り糸を引いたり緩めたりしながら魚を引き寄せている。
やがて、糸の先に赤い魚が見えてきた。
近くまで糸巻きを巻いて引き寄せた後は、手で糸を掴んで筏の上へ引き上げる。
ヴァルトさんが傍らにあるバケツに入れたのは、背中は鮮やかな赤色、お腹は銀色の平べったい魚だった。
(キンメダイみたいな魚だ。美味そう!)
スバルが、元の世界の美味しい魚を連想してワクワクしているよ。
僕の記憶では、学食で魚料理が出ることはあるけど、この魚は見たことがないな。
「お! いいのが釣れたじゃないか。そいつはジャポン料理の【煮付け】が最高だな!」
と言うのは、隣で釣り糸を垂れているマルカさん。
マルカさんは、攻撃魔法系が得意な魔導士だ。
次にヒットしたのはマルカさんの釣り竿。
マルカさんも上手に魚を引き寄せて、黒っぽい魚を釣り上げた。
「こいつはスープがいいな」
バケツに入れた黒い魚を眺めて、マルカさんが満足そうに言う。
マルカさんは料理が得意な人で、帆船の厨房で毎日美味しい御馳走を作ってくれてるよ。
「マルカおじさん、これも美味しい?」
3匹目のヒットはセラフィナだった。
背中が青緑色、お腹は銀色、ほっそりした体型をした魚がバケツの中に入っている。
「お、それは唐揚げにすると美味いぞ」
「唐揚げ? 美味しそう!」
明るい笑顔を見せるセラフィナは、前世の記憶をもつお姫様というより、普通の女の子に見える。
プレア語を覚えて以来、セラフィナは人見知りが無くなってみんなと遊ぶようになっていた。
その後は、ヴァルトさん、マルカさん、セラフィナのヒットがローテーションしている感じが続く。
何故かスバルとバランさんには1匹もヒットが無かった。
「ねぇバランさん、同じ餌を付けているのに、なんで魚がこないのかな?」
「ははは……今日はたまたま運が悪いだけさ」
ボヤくスバルに、バランさんが苦笑して答えている。
能力値的な意味でいえば、この中で一番「運」が高いのはスバルの筈だけどね。
きっと何か違う運が必要なのかもしれない。