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第38話:無人島ディナー

 人魚(?)に、キスされちゃった。

 スバルが固まってるよ。

 僕はスバルと感覚を共有しているから、メーアの唇が触れた感触もしっかり伝わってきた。


 僕はミィファさんに育てられたから、頬や額におやすみのキスをしてもらったことは何度もある。

 孤児院のみんなに、僕がキスしてあげたことも何度かあった。

 でも、メーアみたいに唇にキスされたのは初めてだ。


(……多分あれだ、きっと挨拶みたいなやつだな)


 フリーズしていたスバルの思考が、ゆるゆると動き始める。

 スバルはメーアを治療した場所に置いていた海藻入りのバケツを回収して、岸へと歩いていった。


「アルは凄いなぁ」

「えっ?!」


 浅瀬から岸へ上がった途端に声をかけられて、スバルは飛び上がりそうなくらい驚く。

 驚いた勢いそのままに横を振り向けば、バランさんがバケツを傍らに置いて座っているのが見えた。


「海神族は人間を怖がる筈なのに、大人しく抱っこされてるから驚いたよ」

「えぇぇ……バランさんいつから見てたの?!」

「そろそろ帰るぞ~ってアルを呼ぼうとしたら、海神族の子供を抱き上げるところだったな」

「そ、そうなんだ……」


 ……つまり、キスされたのも見られたってことだね。

 バランさんはニコニコ笑っているよ。


「さて、そろそろみんなのところへ行こう」

「うん」


 バランさんはメーアのことについて深く追求はしなかった。

 海藻がたっぷり入ったバケツを手に立ち上がり、歩き出すバランさんにスバルも続いた。



 マルカさんたちが調理をしている場所に近付くと、風に乗って美味しそうな香りが漂ってくる。

 大きな石を組んだかまどから、焚火がパチパチ音をたてているのが聞こえてきた。

 かまどの上には金網が乗せられていて、リピエノさんが殻をはずした貝肉と殻付きの蟹を炙っている。

 アトラスたちはお昼寝から目を覚ましていて、焼けた貝肉や蟹をお皿に乗せてもらい、テーブルに運ぶのを手伝っていた。

 もうひとつのかまどの上には大きな鍋が置かれていて、マルカさんが魚の煮付けを作っている。

 マルカさんは隣のかまどでも調理していて、そちらには油を入れた鍋を置いて魚の唐揚げを作っていた。

 唐揚げはセラフィナがテーブルまで運んでいる。

 ミィファさんが担当するかまどの上にも鍋が置いてあり、そちらではスープが作られていた。


「海藻採れたぞ~」

「ありがとう! この鍋に入れてくれる?」


 ミィファさんに言われて、バランさんが海藻の水気を軽く絞って鍋に入れる。

 海藻を入れ終えるとミィファさんが軽くかき混ぜて、すぐに火を消した。


 香ばしく焼けた貝肉と蟹。

 甘辛く煮えた魚。

 カラリと揚がった魚。

 魚で出汁をとり、海藻を入れて風味を増したスープ。

 野草と海藻のサラダには塩とスパイス少々、近くの低木から採れた酸味のある果実を絞ってかけてある。

 デザートは、海岸近くの木から採れた大きなフルーツ。


 普段はパンとスープだけで食事を済ませている孤児院のみんなには、ビックリするような御馳走だ。

 学園の食堂でもここまで色々まとめて並ぶことはないよ。


「カニさんおいしい~っ!」

「お魚の煮付けおいしいね!」


 アトラスたち孤児院男子は、ワイルドにかぶりつく焼き蟹が特に気に入ったらしい。

 ミラとクロエは煮付けを食べながら嬉しそうに笑っている。


「この魚、青緑色だったのに揚げたら赤くなるのね」


 セラフィナは姿揚げされた魚を不思議そうに見つめた。

 鱗と内臓を取り除いて身体に切れ目を入れて揚げられたのは、セラフィナが最初に釣った魚だ。


「アルも食べてみる? はい、あ~んして」


 セラフィナが、フォークに差した魚の唐揚げをこちらに向ける。

 スバルは一瞬戸惑ったけど、素直に口を開けて一口サイズに切った唐揚げを食べさせてもらった。

 表面カリッと、中はフワッとした魚の唐揚げは、塩が軽く振ってあるだけで臭みは無く美味しい。


(セラフィナにとって、俺ってどういう存在なんだろう?)


 モグモグしながらセラフィナの笑顔を眺めて、スバルはそんなことを考えていた。

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