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第39話:月夜の人魚

 無人島でキャンプする、アウトドア好きにはたまらない夜。

 みんなが寝静まった後、俺はコッソリとテントの中から抜け出した。


 なんか眠れない。

 多分、脳が興奮状態にあるんだろう。

 転生前の幼少期に、修学旅行先で同じように眠れなかったのを思い出した。

 こういうときは無理に寝ようとせずに、波音を聞きながらリラックスするのがいいかもしれない。


 月明かりの海は昼間と雰囲気が変わり、神秘的な雰囲気が漂う。

 海面を照らす月は光の道を作り、海と陸の狭間でゆるやかな波音が響く。

 環礁の深いところに停泊している帆船が、月の光を受けて風景の一部と化している。

 俺とバランさんが海藻を採った岩場は、満ちた水に覆われて海に変わっていた。


 俺は流木を背もたれに足を投げ出す体勢で砂浜に座り、月と海が織り成す幻想的な風景と、ゆっくりした波音を楽しむ。

 これでα波が出て眠くなったら、テントに帰って寝よう。

 そんな予定は、未定だったようだ。


「アル、今お話できる?」


 誰かが問いかけてくる。

 プレア語じゃない。

 メシエ語でもない。

 声は海から聞こえてきた。


「メーア? どうしたの?」


 そこにいたのは、昼間に会った人魚。

 海神族だったかな?

 上半身は人間の女の子と同じ、腰から下は魚のような鱗に覆われていて、足の代わりに尾鰭がある。


「母様が、アルにお礼をしたいから城へ連れてきなさいって」

「え? メーアってお姫様なの?」

「ううん、母様に創られた眷属だよ」


 眷属(けんぞく)といえば、こんな感じの存在か?

 一族や親族、身内、仲間。

 従者や家来、配下の者。

 仏菩薩などの信仰の対象となる主尊に付き従う尊格。


 メーアは「海神族」で、それを創って眷属にしているといったら……

 ……なんか察したぞ。


「もしかして、メーアの【母様】って、海の神様?」

「うん。もしかして知ってた?」


 やっぱり~っ!


 生命神リイン様がいる世界だし。

 他にも神様いてもおかしくないよな。


「じゃあ、来てくれる?」

「朝までには帰れるかな?」

「大丈夫」


 俺は立ち上がってメーアの方へ歩いていった。

 泳ぐことになりそうな予感がするので、上着は脱いで流木の脇へ置いてある。

 ズボンは伸縮性がありラッシュガードみたいに乾きやすい布地なので、そのまま履いていこう。


「しっかり手を握っててね」


 差し出されたメーアの手を握ると、俺は引っ張られて海にドボンと落ちた。

 手を引かれながらしばらく浅い海を進んだ後、環礁の外に出た途端にメーアが潜水を始める。


 え? ちょっと待って。

 俺そんなに長く潜れないよ?

 っていうか、城ってまさか深海の底だった?!


 焦り出す俺に気付かず、メーアは俺を深い海の底へと引っ張っていった。

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