無人島でキャンプする、アウトドア好きにはたまらない夜。
みんなが寝静まった後、俺はコッソリとテントの中から抜け出した。
なんか眠れない。
多分、脳が興奮状態にあるんだろう。
転生前の幼少期に、修学旅行先で同じように眠れなかったのを思い出した。
こういうときは無理に寝ようとせずに、波音を聞きながらリラックスするのがいいかもしれない。
月明かりの海は昼間と雰囲気が変わり、神秘的な雰囲気が漂う。
海面を照らす月は光の道を作り、海と陸の狭間でゆるやかな波音が響く。
環礁の深いところに停泊している帆船が、月の光を受けて風景の一部と化している。
俺とバランさんが海藻を採った岩場は、満ちた水に覆われて海に変わっていた。
俺は流木を背もたれに足を投げ出す体勢で砂浜に座り、月と海が織り成す幻想的な風景と、ゆっくりした波音を楽しむ。
これでα波が出て眠くなったら、テントに帰って寝よう。
そんな予定は、未定だったようだ。
「アル、今お話できる?」
誰かが問いかけてくる。
プレア語じゃない。
メシエ語でもない。
声は海から聞こえてきた。
「メーア? どうしたの?」
そこにいたのは、昼間に会った人魚。
海神族だったかな?
上半身は人間の女の子と同じ、腰から下は魚のような鱗に覆われていて、足の代わりに尾鰭がある。
「母様が、アルにお礼をしたいから城へ連れてきなさいって」
「え? メーアってお姫様なの?」
「ううん、母様に創られた眷属だよ」
眷属(けんぞく)といえば、こんな感じの存在か?
一族や親族、身内、仲間。
従者や家来、配下の者。
仏菩薩などの信仰の対象となる主尊に付き従う尊格。
メーアは「海神族」で、それを創って眷属にしているといったら……
……なんか察したぞ。
「もしかして、メーアの【母様】って、海の神様?」
「うん。もしかして知ってた?」
やっぱり~っ!
生命神リイン様がいる世界だし。
他にも神様いてもおかしくないよな。
「じゃあ、来てくれる?」
「朝までには帰れるかな?」
「大丈夫」
俺は立ち上がってメーアの方へ歩いていった。
泳ぐことになりそうな予感がするので、上着は脱いで流木の脇へ置いてある。
ズボンは伸縮性がありラッシュガードみたいに乾きやすい布地なので、そのまま履いていこう。
「しっかり手を握っててね」
差し出されたメーアの手を握ると、俺は引っ張られて海にドボンと落ちた。
手を引かれながらしばらく浅い海を進んだ後、環礁の外に出た途端にメーアが潜水を始める。
え? ちょっと待って。
俺そんなに長く潜れないよ?
っていうか、城ってまさか深海の底だった?!
焦り出す俺に気付かず、メーアは俺を深い海の底へと引っ張っていった。