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第40話:海底の城

 メーアが手をしっかり掴んで、深い海の底へと潜っていく。

 人魚は水の中に長時間いられるだろうけど、人間はそうじゃない。

 僕は泳いだことがなかったから、スバルよりもっと慌てていた。

 といっても、僕が慌てたところで身体は動かせないんだけど。


(メーア気付け! 人間は水中では呼吸できないって!)


 咄嗟に息を止めて肺に水が入るのを防いだスバルが、メーアの手を引っ張り返して振り向かせる。

 空いている手で必死に水上を指差すと、メーアはキョトンとした。


「どうしたの? ……あ、そっか説明してなかったね」


 何か気付いたらしいメーアが言う。

 スバルの知識によれば水中では音が聞こえにくくなるそうだけど。

 メーアの声は空気中と同じにハッキリ聞こえる。


「アルには【水の祝福】をあげたから、私みたいに水の中で息ができるし、喋れるよ」

「?!」


 メーアに言われて、スバルも僕も気付いた。

 口や鼻から水が入らないように息を止めてる筈なのに、全く息苦しくならない。

 普通に呼吸をしているような感じがした。


「海神族のキスには、水の祝福の効果があるの」

「そういうのは先に教えてくれ……」


 メーアは繋いでいない方の手の指先で自分の唇を指差して微笑む。

 スバルは急速に落ち着きを取り戻して言った。

 ゲームやアニメに、水中で呼吸ができるようになるアイテムがあったのを思い出したらしい。

 メーアのキスにはそれと同じ効果があるんだろう。


「ということで、安心してついてきてね!」


 ニッコリ笑うメーアに怒る気も無く、スバルはそのまま海底へと連れて行かれる。

 真夜中の海の底、淡く発光する大きな巻貝のような建物が見えてきた。

 その巻貝の中には、メーアと同じ上半身が人で下半身が魚の姿をした女の人たちがいる。

 魚の部分には個性があって、メーアは淡いピンク色、女の人たちは赤や青や紫など、様々な色をしていた。


(海神族って女性だけなのか?)


 スバルはそんなことを思いながら、メーアに手を引かれて螺旋状の建物の中を進む。

 しばらく泳いでいくと、大広間で玉座に座る女性が見えてきた。

 その女性も下半身が魚だけど、七色に煌めく鱗をもっているので普通の海神族じゃない感じがする。


「母様! この子が私を助けてくれたアルキオネだよ!」


 メーアが無邪気な笑顔を向けて、スバルの手を引いて玉座まで泳ぐ。

 そのまま間近まで行くと、メーアはスバルを玉座の女性の膝に乗せてしまった。


「よく来たね、生命神リインの加護をもつ子よ。私はラメル、海を統べる神だ」

「……どうも……はじめまして、アルキオネです……」


 海の神様が、スバルを普通に膝に乗せて微笑んでるよ。

 リイン様の加護がついてるのが分かるのは、同じ神様だからかな?

 スバルは困惑しつつも、膝の上で大人しくしている。


「私の眷属こどもたちは人間に狩られることが多いのだが、そなたはメーアを助けてくれた。稀なる人間に、私からも加護を授けよう」


 ラメル様はそう言うと、自らの鱗を1枚剥がしてスバルの右手の甲に貼り付ける。

 虹色の鱗は一瞬光を強めた後、皮膚に溶け込むように見えなくなった。


「アルキオネ、これでそなたは海に護られる。いつでも海はそなたの味方だ」

「ありがとうございます!」


 こうして僕の身体には、新たにラメル様の加護が与えられた。

 海の神様の加護は、船旅にはとても頼もしいね。

 航海の安全が保障された~! ってスバルが大喜びしていたよ。

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