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第41話:海神の加護

 無人島の朝。

 昨夜まだみんなが寝ているうちに戻って来た俺は、何事も無かったかのように子供たちと一緒に起きた。


 マルカさんが朝食を用意してくれている。

 子供たちを魅了するのは、蜂蜜トースト。

 かまどで表面をカリッと焼いたパンにかかっているのは、ヴァルトさんが野生の蜜蜂の巣から採ってきた蜂蜜。

 南国の花を思わせる甘くて華やかな香りがする蜂蜜は、俺史上最高に美味いやつだ。

 自然に関する知識が深いヴァルトさんは、蜜蜂たちを眠らせる香を焚いて、蜂たちが飢えない程度に蜂蜜を採集したらしい。


「甘くて美味しい~」

「お花の匂いがする~」

「なんか幸せ~って感じがする~」


 アトラスたちが満ち足りた笑みを浮かべてパンを齧っている。

 蜂蜜は高級品だから、孤児院の子供たちには人生初の甘味との出会いだろう。

 冒険者学園の学食で蜂蜜をかけたパンが出ることはあるけど、味が全然違う。

 ふと隣を見れば、高級品を知ってる王族のセラフィナさえも、幸せそうに蜂蜜を味わっていた。



「では、そろそろ船に戻ろうか」


 朝食を済ませた後、リピエノさんがみんなに声をかける。

 帆船の船員たちが、小舟で迎えに来てくれた。

 朝食を済ませた後は、みんなでキャンプの後片付けだ。

 テントを畳んで、かまどを崩して、灰は土に埋める。

 自然に還らないゴミはもちろん持ち帰るよ。

 砂浜をキャンプ前の状態に戻して、俺たちは航海を再開した。


「おぉ?! なんだこりゃ?!」

「海流が船を後押ししているぞ!」


 船が動き出してすぐ、船員たちが騒ぎ出した。

 帆船は風の力と魔石を動力にするスクリュープロペラで進む。

 ところが今は進行方向へ流れる潮の力が加わり、船は滑るように速く進み始めた。


「わぁ! 昨日より速い~」


 明らかに昨日とは違う速度に、子供たちもテンション高い。

 外海の波も昨日までとは全く違って、上下の揺れがほとんど無く、ひたすら進行方向に押し出されていた。


「凄いな、まるで誰かが海神様の加護をもっているような奇跡だな」


 って言いながら、俺の方をチラッと見るのはバランさん。

 それ、誰か分かってて言ってるよね?


「え~、海神様の加護を貰えるなんて、聖女か勇者くらいでしょう?」


 バランさんの隣にいるミィファさんは、全然気付いてない。

 聖女なら俺の隣に1人いるけどね。


「聖女でも海の生き物を助けた人じゃなきゃ、加護は貰えないかも」


 って言うセラフィナは、バランさんの視線で察したかもしれない。

 聖女じゃないけど海の生き物(海神族)を助けた奴が、ここにおります。


「よく分からないけど、船が速く進むのはいいことだよね~」


 とりあえず俺は無難なことを言っておいた。


 海神の加護については隠さなくてもいいのかもしれないけど。

 その経緯で海神族を助けた話になると、ちょっと面倒かな?

 ラメル様が「人間に狩られることが多い」とか言ってたし。

 人魚が不老不死の薬になるとかで、狩られる話はゲームやアニメで見たからな。

 あの辺りに海神族が住んでるなんて情報は、広まらない方がいい気がするよ。

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