他の船を牽引しながらの航行は、海賊たちには格好の餌食に見えたのだろう。
またもや現れる海賊に、俺は少々うんざりしていた。
「命が惜しけりゃ、金と荷物と女を置いていきな!」
モントル号と並走しながら、海賊船の首領らしき男が言う。
あ~鬱陶しい。
甲板に出た俺は、海賊船から近い方へ歩いていき、片手でピストルの形を作って海賊船に向けた。
「ガキ! チョロチョロ動いてっとブッ殺すぞ!」
「無理だと思うよ」
「なんだと?! 死ねやクソガキ!」
威嚇するように怒鳴る首領っぽいオッサンに、俺は言い返してやった。
カッとなったオッサンがクロスボウを発射する。
放たれた矢は俺に到達することなく、下から吹き上がる海水に弾き飛ばされた。
「無駄だよ。オジサンたちにできるのは、逃げるか降参するかだ」
「クソガキが舐めやがって! おいてめぇら、あの生意気なガキを永遠に黙らせろ!」
オッサンの命令で海賊たちが一斉射撃を仕掛けるより早く、俺は魔法を発射した。
水属性魔法(特殊):
→水属性魔法(特殊・上位変換):
俺の指先から放たれた水の弾丸が、一気に膨れ上がって竜の形になる。
驚愕するオッサンと部下たちを乗せた黒い船を、竜の爪が真っ二つに切り裂いた。
舳先と船尾に分かれた海賊船から、オッサンたちが海へと放り出された。
「うわぁぁぁ!」
「ひぃぃぃっ!」
必死で木切れにつかまって浮かびつつ、海賊たちはパニック状態だ。
俺は風魔法で海竜の顔がある辺りまで飛翔して並び、海賊たちを見下ろしてやった。
「船が壊れたからもう逃げられないね。そのまま船の残骸と一緒に運んであげるよ、湾岸警備兵のところまで」
悪い顔して言う俺を見上げて、沈黙する海賊たち。
その時点で海賊たちはもう俺が普通の子供ではなく、勝てる相手ではないと察したようだ。
海賊船の残骸と海賊たちを、海神ラメル様が起こす海流が港へと押し流していく。
ま、溺れることは無いだろう。
尋常じゃない速さで流されていく海賊たちと海賊船の残骸を見送った後、モントル号へ戻るとみんなが野次馬みたいに群がって待っていた。
「いやはやもう6歳児とは思えない力だね」
「海賊たちが手も足も出なかったじゃないか」
と言うのは、リピエノさんとバランさん。
割といつも冷静な2人だ。
「アルは海賊の天敵だね!」
「冒険者になったら、ギルドから海賊討伐の依頼がくるかも!」
ヴァルトさんとマルカさんまで、そんなことを言う。
流されていった海賊たちが港に着いた後、警備兵に「頼む、俺たちを拘束してくれ!」と泣きついたっていう噂が俺たちの耳に入るのは、もう少し後のことだった。