ユノさんの船は損傷が多くて自力で航海を続けられないので、モントル号がロープで引っ張りながら海を進むことになった。
途中で別の海賊に襲われそうだから、ユノさんの船の人たちにはモントル号の船室に滞在してもらっているよ。
「お前は、俺を嫌ってるんじゃないのか? どうして助けてくれたんだ?」
「医者が治療する患者を選り好みしないのと同じさ」
蘇生魔法で助かったハインドは、なんだか申し訳なさそうな顔で聞いてくる。
スバルはなんでもないことのように答えていた。
能力値の大幅な上昇や全属性持ちになったことを、みんなに告げたスバル。
治癒魔法で救われた人たちからは、全力で感謝されているよ。
呪いの魔法陣から能力値の上昇を得られるのは特別な人だけとのことで、娼館のお姉さんたちからは勇者扱いされている。
「勇者の坊や、お姉さんがサービスしてあげようか?」
「今夜、お姉さんの部屋に来てもいいわよ」
「え~と……」
「アルはまだ6歳ですっ! まだ早いですっ!」
冗談か本気か微妙な誘いをかけてくる綺麗なお姉さんたちを、ミィファさんが必死で阻止している。
ミィファさんに抱き上げられて連れ去られながら、スバルは苦笑していた。
精神的には20歳なんだけど、入ってる僕の身体は子供だからね。
お姉さんたちの【サービス】がどんなものかは分かるけど、スバルにその気は無いみたいだ。
「能力値が変化したこと、みんなに話したのね」
「うん。でなきゃ治癒魔法のこととか説明がつかないから」
夜の船上。
満ちた月に照らされる甲板の上で、セラフィナとスバルが仲良く座って話している。
セラフィナはスバルが唯一全てを話した相手。
転生者同士で生前の年齢も近いから、仲間意識みたいなのがあるらしい。
「複数の神様から加護を貰うなんて、アルは本当に勇者みたいね」
「たまたまだよ、あのときメーアを治療したのがセラなら、加護はセラに付与されてたと思うよ」
スバルは空に浮かぶ月を見上げて言う。
こちらの世界の月は、スバルがいた世界の月とよく似ていた。
「それはないわ。私は、今は人前で力を使わないもの」
「人前ではダメでも、人魚の前ならいいんじゃないかな?」
「でも、アルはバランさんに見られたじゃない」
「と、途中からね」
スバルは人魚のメーアに水の祝福をもらうところをバランさんに見られている。
その方法がアレだったので、なるべくバランさんに見られた件には詳しく触れないようにしていた。
でも……
「それに私、【水の祝福】は遠慮しておきたいわ。女同士でキスする趣味は無いから」
「えっ?!」
……セラフィナは、水の祝福のことを知っているみたいだ。
「海神族が人間に祝福を与える方法はキスでしょ? メシエ国の王宮書庫の禁書に書いてあるわ」
「し、知ってたんだ……」
「大丈夫よ。他の人には言わないから」
「そうしてもらえると助かるよ」
平然として言うセラフィナに、動揺したスバルが顔を引き攣らせつつ苦笑した。