夏休みの終わり頃。
商船モントル号の船旅は終わり、プレア王都の港に帰港した。
『ラメル様、楽しい船旅をありがとうございました!』
『いつでも海へ遊びにおいで。待っているよ』
スバルは桟橋に立ち、海に向かって手を合わせた。
海の神様にお祈りする人は多いけど、お返事してもらえるのはスバルくらいじゃないかな?
みんなが帰国して間もなく、マイア孤児院の改築工事が始まった。
工事期間中に孤児院のみんなが暮らす場所は、リピエノさんの御厚意に甘えてモントル号の船室を借りている。
「まさか6年前、ここで泣いていた赤ん坊がS級冒険者になるとはなぁ」
「S級?」
孤児院の門前に立ち、工事中の建物を眺めながらバランさんが言う。
話を聞いていたスバルが、キョトンとしてバランさんを見上げた。
「ん? その腕輪を貰うときに説明されなかったか? 白金の腕輪はS級の証だぞ」
「え?!」
「冒険者学園の入学パンフレットに書いてあるが、忘れてたか?」
「うん、全然覚えてなかった」
スバルも僕もすっかり忘れていたけど、冒険者証の腕輪は階級によって色が違う。
C以下は銅、
B級は銀、
A級は金。
そして白金は、S級冒険者の色だ。
「まさか、海賊船をブッ壊しただけでS級認定されるなんて思わなかったよ……」
「軍艦以上に頑丈な海賊船を、あんな派手にバラバラにしたらS級だろうさ」
「あの威力は、ほとんどラメル様の力なんだけど」
「その力を貸してもらえる人間なんて、滅多にいないぞ」
苦笑するスバルに、バランさんが笑って言った。
それから、バランさんは再び孤児院の建物に目を向ける。
スバルもそちらを見つめた。
「俺がヨボヨボの爺さんになったら、アルが孤児院を継いでくれるか?」
「そんな当分先のこと言わないでよ。……そのときは継ぐけどね」
バランさんが気の早いことを言い出したよ。
スバルはツッコミ入れてるけど、引き受けるみたいだ。
孤児院の玄関前、そこは僕が赤ん坊の頃に棄てられていた場所。
以前にミィファさんに聞いた話では、まだ臍の緒がついていたらしい。
他の子は親が死んだり虐待されたりしていたところをバランさんに保護された子たちだけど。
僕は生まれてすぐ棄てられたから、親に関する記憶が無い。
(……いっそ、棄てた親が後悔するぐらい活躍してやろうか?)
作業員たちが忙しそうに資材を運ぶのを眺めて、スバルはそんなことを思う。
僕を産んだ人がすぐ手放したのは、一体どんな事情だったんだろうね?
雨漏りと隙間風に悩まされたオンボロ建物が、生まれ変わるように新しい建物に変わっていく。
それはどこか、スバルによって変わっていく僕に似ていた。