僕は、勇者として生まれる筈だった?
神様たちの言葉に、僕は戸惑っていた。
「アルキオネ、これからは君も表に出られる。昴流と共存して生きてゆくがよい」
ルミナス様が微笑む。
僕は、やっと自分の身体を動かせるらしい。
「覚醒した今なら、転生者用の人格交代スキルも開放されている。ここを出た後に試してみなさい」
「「はい」」
ルミナス様の言葉に、僕とスバルは同時に答えた。
確認のためスバルがステータスを開くと、スキル欄には今までなかったものが増えている。
特殊スキル:セ・レルイエ
転生者用の人格交代スキル。
前世人格と現世人格を交代することができる。
スキルの主導権は、使用時に表層に出ている人格に委ねられる。
「元の空間に戻れば、表層に出ているのは昴流だ、状況に応じてアルキオネと交代するがよかろう」
「はい」
今度はスバルだけが返事をする。
状況に応じて……って、僕が役立つ場面なんてあるのかな?
そう思ったらスバルに伝わったのか、振り向いてニッと笑いかけられた。
『ミィファさんたちは俺よりアルキオネに会いたい筈だぜ』
喋らなくても、スバルの思考が伝わってくる。
確かに、僕を赤ん坊の頃から育ててくれたミィファさんならそうかもしれないと思った。
スバルが転生者であると明かさなかった理由も思い出す。
彼は、孤児院のみんなに別人であることを伝えたらショックを受けるだろうと考えて、隠していたんだった。
「さあ、そろそろ元の空間に戻り、今代の法王にかかった呪いを解いてやりなさい。勇者と聖女の光を合わせれば、闇の呪いを浄化して回復してやれるだろう」
「「「「はい」」」」
ルミナス様の言葉に4人で頷き、僕たちは法王様がいる場所へ帰された。
◇◆◇◆◇
謁見の間。
僕たちが戻ると、思っていたより大変なことになっていた。
「陛下、私は光の力を手に入れました。これで次の法王は決まりですね」
光の加護をもつとは思えない、邪悪な笑みを浮かべる青年。
最初に会ったときは黄金色だった髪は、輝きを失って枯草みたいな色になっていた。
その髪のあちこちには、鮮血がベッタリと付いている。
青年の右手には、真紅の大きな宝石。
左腕には、グッタリした赤ん坊が抱えられている。
彼の足元には鮮血が広がっていて、その上に法王様とミセジ神官が倒れていた。
更に周囲を見回すと、お城の兵士たちも倒れている。
謁見の間に繋がる廊下は、血の海になっていた。
「なにを……してるの?」
「おやセラフィナ、どこへ行っていたんだい?」
僕の隣にいたセラフィナ(ソフィエ)が、震える声で問いかける。
青年が歪んだ笑みを向けて問い返した。
「……その子、あなたの娘じゃないの……?」
「ああ、そうだよ。私に聖石をくれた、とっても良い子だ」
セラフィナが青年の左腕に抱えられた赤ん坊を指差してまた問う。
青年の言葉で、右手に持つ真紅の宝石が何かわかった。
「そこまでして、法王になりたいのかよ?」
スバルの怒りが、心の中に満ちる。
妹のセラフィナを殺して聖石を奪おうとしていた王子は、実の娘が聖女だと分かった途端に殺したらしい。
孤児の僕は親子の愛情ってよく分からないけれど、日本で両親に愛されて育ったスバルには、親が子を殺すなんて絶対にやっちゃいけないことだった。