「セラフィナ、あなたは殺されたりしませんよ」
「……ほんとう……?」
優しい声が、背後から聞こえる。
涙を流しながらリイン様に視線を向ける幼い少女セラフィナは、俺が今まで接してきた子とは別人格だった。
「本当です。生命の神である私が保証しますよ」
その場にいた4人全員の視線が、リイン様に向く。
虹色の髪と瞳を持つ女神は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
「もう二度と私が加護を与えた子が殺されないように、今日ここへ来てもらったのだよ」
突然、別の声が辺りに響く。
長机の向こう側、リイン様の隣に、金色に煌めく光の粒子が現れる。
光の粒子は集まって人の形になり、長い黄金の髪と緑の瞳を持つ青年が現れた。
「ルミナス様……」
その名を呟くのは、セラフィナを抱き締めている女性ソフィエ。
ルミナスという名は、学園の書物によれば聖女に加護を与える光の神の名前だ。
ソフィエやセラフィナの容姿が似ているのは、光の神の加護が影響しているんだろうか?
「昴流、アルキオネ」
ルミナス様はソフィエに微笑んだ後、真剣な顔になってこちらを見る。
俺と、すぐ後ろにいる銀髪の少年の名を呼ぶ。
「君たちを覚醒させよう。メシエを浸食している闇を退け、王家に入り込んだ邪気を祓ってもらいたい」
光の神から放たれる金色の粒子が六芒星に似た形をとり、銀色に変わって俺の胸から体内に入り込む。
目にかかる前髪が、黒から銀に変わっていく。
もしかしたら瞳の色も変わったかもしれない。
太陽の光を思わせるセラフィナやソフィエの金髪とは違い、銀色は研ぎ澄まされた剣を思わせる。
ふと振り返れば、アルキオネの胸にも同様に光の粒子が吸い込まれるのが見えた。
「金色は生命を育む力、銀色は闇を退ける力、聖女と勇者は共に在ってこそ真の光となる」
ルミナス様の言葉は、俺にとってはゲームやアニメでよくある台詞で、それほど驚くものではない。
ソフィエとセラフィナが2つの人格に分かれていたように、俺とアルキオネの人格が分かれていたことも不思議ではなかった。
意外なのは、ルミナス様がその後に告げた言葉の方だ。
「異なる世界に分け離されていた魂を融合させた。これで勇者は本来の力を使えるだろう」
「……僕の魂は……2つに分かれていたんですか……?」
俺と同じくそれが予想外だったらしいアルキオネが問う。
自分の魂が2つに分けられていたなんて、思ってもみなかった。
アルキオネは、自分は凡人以下の劣った人間だと思い込んでいたから、勇者と言われて驚いてもいる。
「そうだ。闇の神が死の神に命じて輪廻転生に干渉し、勇者として生まれる筈だった子の魂を半分切り取って異世界へ飛ばした。それが星野昴流という日本人に生まれていたのだよ」
俺はこの日、自分が日本に生まれた理由を知った。
この世界へ来たのは普通の異世界転生だと思っていたけど。
俺は、本来はアルキオネとしてこの世界に生まれる筈だったのか。