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第68話:2人の転生者

「いらっしゃいませ。神々の間へようこそ」


 見覚えのある場所。

 白い霧のようなものが漂う空間に、壁のような大きな本棚とアンティークな長机がある。

 スバルが転生する前に来た場所だ。

 長机の向こう側にある椅子に、長くてサラサラした髪の綺麗なお姉さん=リイン様が座っている。


 リイン様の髪は、キラキラと光る度に様々な色に変わる不思議な色をしていた。

 スバルの前世知識によれば、オパールという宝石がもつ遊色効果(虹色の輝き)に似ているみたいだ。


「立ち話も何ですから、4人ともどうぞお座り下さい」

「「「「えっ?」」」」


 リイン様は「4人」と言った。

 驚く声が4つ重なる。

 僕とセラフィナ、子供の声の他に、大人の声が2つ。

 このとき、僕は自分で身体を動かせることに気付いた。

 手を繋いで並び立つ僕とセラフィナの中から、白い光の玉がスゥッと抜け出て、人の形に変わっていく。


 後ろ姿なので顔は見えないけれど、黒髪の男性と金髪の女性だ。

 僕とセラフィナよりも倍くらい背が高いから、多分大人だと思う。

 2人は驚いたようにそれぞれ自分の両手を見つめ、互いの顔を見て呆然としている。


「昴流さん、ソフィエさん、今回はあなたたちの現世人格にも来てもらいました」

「現世人格……?」

「あなたたちの後ろにいますよ」

「?!」


 振り返った2人が、僕とセラフィナを見て言葉が出ないほど驚く。

 僕は黒髪の男性の顔を見て、彼が「星野昴流」という日本人だと理解した。

 隣にいる女性は初めて見るけれど、セラフィナの前世「ソフィエ」なんだと思う。


「……どうして……」


 そんな呟きと共に、繋いだままの手がギュッと強く握られる。

 ハッとして隣を振り返ると、セラフィナが驚きに目を見開いたまま涙を流していた。


「どうして……起こしたの……?」


 セラフィナの声が震えている。

 僕の手を強く握るのは、感情の爆発を抑えるためかもしれない。

 でも、とうとう堪え切れなくなったのか、彼女は号泣した。


「うわぁぁぁん!」


 僕の手を握って立ったまま、セラフィナは年齢通りの小さな子供みたいに大泣きする。

 スバルとソフィエは困惑して立ち尽くし、その向こうにいるリイン様は憐れむように溜息をついた。


「わ、わたし、起きるのイヤなのに! に、兄さまどうして私を殺すの?! イヤイヤイヤ~ッ!」

「落ち着いて!」


 絶叫するセラフィナを、ソフィエが慌てて抱き寄せる。

 セラフィナもソフィエも長く波打つ金髪に緑の瞳だから、2人はまるで親子か年の離れた姉妹みたいに見えた。


「に、兄さま、私がキライだったの? やさしかったの、ウソだったの? わたし、生きていちゃダメなの?」

「大丈夫、生きていいのよ。私が一緒にいるわ。勇者様もいる。彼が強いのは、もう知っているでしょう?」


 ソフィエに抱き締められて頭や背中を撫でてもらううちに、セラフィナは少しずつ落ち着いていく。

 2人の会話を聞いているうちに、僕は今まで見ていたセラフィナは前世ソフィエの人格で、本来のセラフィナは今まで眠っていたんだと気付いた。

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