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第67話:法王の謁見

「待っていたよ今代の勇者。私の命あるうちに来てもらえて幸いだ」


 法王は顔色が悪いものの、まだ玉座に座って会話ができる状態だった。

 ミセジ神官が広間の中央で跪く。

 俺もそれに倣って跪き、やんごとなき方に対する敬意を示した。


「セラフィナも、無事で良かった。勇者と婚約したのなら、城の中でも安全であろう」


 法王はセラフィナが兄に命を狙われていることを知っているのだろうか?

 跪いて床を見つめたまま、俺は法王の言葉の続きを待った。


「そうおっしゃるということは、お父様の体調不良も、そういうことなのですね」

「ああ、そうだ」


 法王もセラフィナも具体的なことは口に出さないが、どういうことかは俺も想像できる。

 まだ世継ぎを決めていない王が死ぬようなことがあれば、長男が継ぐ方向に進むだろう。


「転生者のそなたたちが出会ったのは運命であろう。未来をあるべき方向に進めてほしい」

「……僕たちが転生者であると知っておられたのですか?」

「昔から勇者といえばみな異世界転生者なのだよ。それに、セラフィナも転生者であると、生命神様のお告げがあったのだ」


 法王の口から「転生者」という単語が出て、正直驚いたけど。

 お告げがあったのか。

 リイン様が話したのなら、隠す必要はなさそうだ。


「お父様は私の前世が誰か、御存知?」

「ああ、今は知っている。事故で死んだと言われていた従妹のソフィエだね」

「事故ではなく、殺されたの。光の力を欲した双子の兄に」


 セラフィナの前世は、法王の従妹だった。

 メシエの法王の座は光の力が強い者が選ばれるそうで、先代の王の直系である必要は無かった。

 ソフィエの双子の兄は、聖石を手に入れて王座に就こうとしたらしい。


「エミリオも愚かなことを……。ソフィエを犠牲にして得た聖石もろとも崖から落ちて死ぬとは……」


 法王は溜息をついた。

 光の力を持たぬ者が法王になる際は聖女を殺して聖石を手に入れると聞いているけど、彼は違うらしい。

 生命神リイン様の加護があるのなら、今の法王はもともと光の力があったのかもしれない。


「せっかく転生したソフィエを同じ目に遭わせるわけにはいかぬ。2人ともこちらへ」

「アル、一緒に来て」


 法王に言われ、セラフィナに手を引っ張られ、俺は立ち上がる。

 セラフィナと手を繋いだまま玉座のすぐ前まで行くと、法王は俺たちに片手を向けて何かの魔法を起動した。


「生命神様に願い奉る、今代の勇者と聖女に光の道を開き賜え」


 祈りに似た詠唱。

 俺とセラフィナの足元に金色の魔法陣が現れる。

 身体がフワッと浮いた感じがした直後、俺はセラフィナと共に見覚えのある空間に移動した。

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