「まずは、一刻も早く法王様のもとへ」
ミセジ神官の案内で、スバルとセラフィナはメシエの法王の居城へ向かう。
城に着くと門番の兵士たちがすんなり通してくれるのは、ミセジ神官の地位だけでなく、聖女で第五王女のセラフィナも一緒だからかな?
城内の回廊を奥へ向かって歩いていたら、前方から長い黄金の髪を靡かせる青年が歩いてくる。
「おぉフィナよ、やっと帰ってきたね! 君がいなくてとても寂しかったよ!」
青年はセラフィナに微笑みかけて言う。
両手を広げて抱擁しようとするのを、セラフィナがサッと避けてスバルの背後に隠れた。
「ごめんなさい兄さま。私はこちらの勇者さまと婚約しましたの。他の殿方には身体に触れられたくありません」
「なんだって?!」
避ける理由を聞いた青年が、ギョッとして目を見開いた。
彼はセラフィナとスバルを見比べて、半ば放心状態になっている。
「婚約……? まさか……」
「ええ。この方に初めての接吻を捧げました」
恥じらうようにポッと頬を赤らめるセラフィナは、どこまで演技でどこから本気なのかな?
セラフィナにピッタリくっつかれているスバルは、本気で照れている。
スバルと身体を共有する僕には、自分の頬が少し熱くなるのが感じられた。
船の中でセラフィナは、ミセジ神官の立ち会いのもとにスバルと婚約式を済ませている。
婚約式は神官がその場にいれば、場所は問わないらしい。
メシエの王族や貴族の婚約式は、キスをすることで成立するんだ。
セラフィナにとって初めてのキスは、スバルにとっては2人目だけど、それは気にしなくていいそうだよ。
海神族メーアのキスは水の祝福を付与する目的なので、ノーカウントなんだって。
「そんな……何も相談せずに婚約なんて酷いじゃないか」
「聖女は勇者に惹かれるものですから。これは運命でしょうね」
青年はかなりショックを受けたみたいだ。
抗議するように言う彼に、セラフィナは冷静に返している。
「お父様がお待ちですから、これで失礼しますわ」
「待っ……」
「行きましょう、アル」
立ち去ろうとするセラフィナを呼び止めようとした青年は、あっさりスルーされてしまった。
足早に青年から離れていくセラフィナに手を引かれて、スバルもチラッと青年を見て会釈をしただけで歩き出す。
セラフィナが言っていた「ちょっと迷惑な身内」って、あの人のことかな?
兄さまと呼んでいたから、あの人がセラフィナを殺して聖石を奪おうと企む人かもしれない。
ってか、婚約したら血縁者でも異性に触れられなくなるの?
それが王族ルールなのか、他の身分の人もそうなのか、よく分からないけど。
少なくともあの人は、セラフィナの身体に触れることはできなくなった。