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第66話:メシエ王族の婚約

「まずは、一刻も早く法王様のもとへ」


 ミセジ神官の案内で、スバルとセラフィナはメシエの法王の居城へ向かう。

 城に着くと門番の兵士たちがすんなり通してくれるのは、ミセジ神官の地位だけでなく、聖女で第五王女のセラフィナも一緒だからかな?

 城内の回廊を奥へ向かって歩いていたら、前方から長い黄金の髪を靡かせる青年が歩いてくる。


「おぉフィナよ、やっと帰ってきたね! 君がいなくてとても寂しかったよ!」


 青年はセラフィナに微笑みかけて言う。

 両手を広げて抱擁しようとするのを、セラフィナがサッと避けてスバルの背後に隠れた。


「ごめんなさい兄さま。私はこちらの勇者さまと婚約しましたの。他の殿方には身体に触れられたくありません」

「なんだって?!」


 避ける理由を聞いた青年が、ギョッとして目を見開いた。

 彼はセラフィナとスバルを見比べて、半ば放心状態になっている。


「婚約……? まさか……」

「ええ。この方に初めての接吻を捧げました」


 恥じらうようにポッと頬を赤らめるセラフィナは、どこまで演技でどこから本気なのかな?

 セラフィナにピッタリくっつかれているスバルは、本気で照れている。

 スバルと身体を共有する僕には、自分の頬が少し熱くなるのが感じられた。


 船の中でセラフィナは、ミセジ神官の立ち会いのもとにスバルと婚約式を済ませている。

 婚約式は神官がその場にいれば、場所は問わないらしい。

 メシエの王族や貴族の婚約式は、キスをすることで成立するんだ。

 セラフィナにとって初めてのキスは、スバルにとっては2人目だけど、それは気にしなくていいそうだよ。

 海神族メーアのキスは水の祝福を付与する目的なので、ノーカウントなんだって。


「そんな……何も相談せずに婚約なんて酷いじゃないか」

「聖女は勇者に惹かれるものですから。これは運命でしょうね」


 青年はかなりショックを受けたみたいだ。

 抗議するように言う彼に、セラフィナは冷静に返している。


「お父様がお待ちですから、これで失礼しますわ」

「待っ……」

「行きましょう、アル」


 立ち去ろうとするセラフィナを呼び止めようとした青年は、あっさりスルーされてしまった。

 足早に青年から離れていくセラフィナに手を引かれて、スバルもチラッと青年を見て会釈をしただけで歩き出す。


 セラフィナが言っていた「ちょっと迷惑な身内」って、あの人のことかな?

 兄さまと呼んでいたから、あの人がセラフィナを殺して聖石を奪おうと企む人かもしれない。

 ってか、婚約したら血縁者でも異性に触れられなくなるの?

 それが王族ルールなのか、他の身分の人もそうなのか、よく分からないけど。

 少なくともあの人は、セラフィナの身体に触れることはできなくなった。

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