プレアからメシエに向かう西方の航路は、南方のルカン島とは別の海賊たちのナワバリらしい。
その海賊たちにも、どうやら俺の噂が広まっているみたいだ。
「ヒャッハー! 神官ども、お布施をよこしな!」
神官相手にお布施を要求するのは、赤毛のモヒカン男。
神をも恐れぬ海賊たちの船が、前方を横切るように出てきて、神殿の帆船の進路を塞ぐ。
西方の海賊たちの船は、血のような赤色の塗料で染められていた。
白い帆に大きく描かれているのは、赤色の蛇。
西方の海域にいるという、猛毒の海蛇だ。
「お布施?」
「ヒィッ!」
俺はすぐに船室から出て、甲板に上がると舳先に立って言ってやった。
海賊たちは、神官たちの背後から出てきた俺の姿を見ただけで、悲鳴を上げて逃げ腰になる。
「これでいい?」
「うわぁぁぁ! 海竜使いだぁ!」
「逃げろぉぉぉ!」
さっきまでの威勢はどこいった?
海竜召喚するまでもなく、ピストルの形にした片手を向けたら戦闘は終わってしまったぞ。
海賊船は90度旋回して、全速力で離れていく。
あんな大きな船がほぼ直角に向きを変えるなんて、西方の海賊は操船技術高いな。
……っていうか、そんなに怖いか?
『追いかけるかい?』
『いや、あのままメシエまで押し流してやって』
ラメル様の念話は、なんだか面白がっている様子が感じられる。
海賊が逃げていく方角にメシエの港がある筈だが、海賊たちが向かう理由はなんとなく察したので、彼等の船の加速だけお願いしておいた。
爆速の海流に乗せられて、海賊船はあっという間に見えなくなる。
海風に乗って野太い悲鳴が聞こえてくるが、まあ気にしないでおこうか。
「神罰よりも恐れられるってどういうこと?」
「姿を見せぬ神様より、目の前に現れて船を壊す海竜使いの方が怖いんだと思うわ」
「海賊にとって船は生命線ですからねぇ」
必死で逃げていく海賊を半目になって見送る俺。
背後にいたセラフィナとミセジ神官が、面白そうに笑いながら言った。
護衛の2人と他の神官たちも苦笑している。
船員たちに至っては、普段は恐ろしい海賊たちの情けない姿に大爆笑していた。
赤い海賊船は普段より3倍速くメシエに着き、海賊たちは半泣きで海上警備隊に降伏して保護を求めたという。
「【海賊潰し】のアルキオネ様ですね。後ほど冒険者ギルドから報酬をお渡ししますので、お時間あるときに来て頂けますか?」
神殿の帆船が港に着き、俺が下船したらもうメシエ支部のギルド員が待ってたよ。
対応、早いな。
変な二つ名が付いてるけど。
その後、海竜使いが海賊を滅ぼしに来たなんていう噂も広まり、他の海賊たちまで降伏して自ら牢屋に入りに来る騒ぎとなった。
俺は特に何もしていないのに、ちょっと姿を見せただけで、この辺りの海域からも海賊はいなくなってしまったらしい。