メシエ行きの船の中、スバルはセラフィナやミセジ神官から法王様についての話を聞いた。
今の法王様は、セラフィナのお父さん。
子供はたくさんいるけど、まだ跡継ぎを決めていないらしい。
「間もなく港に着きます。勇者様はこちらにお着替え下さい」
「法王様は、姫様がプレアに亡命されたことを御存知です。もしも姫様に会うことができたなら、これを渡すようにとおっしゃいました」
スバルとセラフィナは、それぞれ渡された真新しい服に着替えた。
港に着いたら、すぐ法王様と会うことになるらしい。
「お父様に何かあったの? 私が城を出る前は元気そうだったけど」
特等船室の中、聖女用の白いローブを着たセラフィナが、ミセジさんに問いかける。
白い柔らかな布地は光沢があり、八重咲の花の刺繍が施されている。
彼女はプレアの港を出てからは身分を隠さなくなった。
顔を知る者が多いメシエでは、隠したところですぐバレると悟ったらしい。
「法王様は、原因不明の病に罹っておられます」
「病? 生命神の加護をもつお父様が?」
ミセジ神官の言葉に、セラフィナは信じられないという感じで問い返した。
生命神といえば、僕の身体にも加護をくれたリイン様だ。
全能力値が上昇する加護は転生者オリジナルかもしれないけど、病に罹らない効果をもっている。
セラフィナの言葉から、転生者以外への加護にも無病効果があるのが分かった。
「はい。表向きは。しかし私たちは、何者かに毒を盛られたか、呪いを受けておられるのではないかと考えております」
「解毒薬や解呪魔法は試したの?」
「はい、総合的なものは。しかし種類が特定できないため、延命措置程度しか効果がありません」
「どんな症状か教えてくれる?」
セラフィナは、何か心当たりがあるんだろうか?
ミセジ神官から症状を聞いているうちに、なにか思いついたらしい。
「アル、お願いがあるんだけど」
「いいよ。僕にできることなら」
やがてセラフィナは、こちらを向いて言う。
スバルは勿論協力するつもりだ。
「私の婚約者になって」
「へ?!」
でも、セラフィナのお願いは想定外な内容で、スバルはマヌケな声を出した。
法王様の病気の話じゃなかったの?
僕も困惑しかないよ。
「え~と……、どうしてそうなるの?」
「ちょっと迷惑な身内対策よ」
「わ、分かった。協力するよ」
「ありがとう。アルとなら上手くやっていけると思うわ」
ワケあり婚約をあっさり決めるお姫様を、ミセジ神官も護衛の2人も、ちょっと驚きつつも反対はしなかった。