「御用件は分かりました。でも勇者認定ってする必要あるんですか? 僕はもうS級冒険者の地位を貰っているので、国家には縛られませんが」
何をしてほしいのか聞いてみたものの、俺は承諾するとは言っていない。
コメルス支部長のシースリットさんが冒険者登録を急がせたのは、こういうことに備えたんだろう。
正直、面倒そうな国に行きたくねぇ。
アルキオネの目標は【冒険者】であって【勇者】じゃないからな。
「既に冒険者である方を、メシエ王家が縛ることはございません。大神殿で今代の勇者様を公式発表し、お渡ししたいものがあるのです」
「それは今すぐ必要なことですか? アルが成人するまで保留にすることはできないのですか?」
ミセジ神官は、ここでは言えない事情も抱えているようだ。
ミィファさんは俺を抱く腕に力を込めて問いかける。
「……今の法王様が存命のうちに、お会いしたいと望んでおられます」
「アル、行ってあげて」
「?!」
ミセジ神官が声のトーンを下げて言った直後、俺たちの背後からセラフィナの声がする。
ミィファさんが驚いて振り返るから、必然的に俺の視線もそちらを向く。
そこには、いつの間にかセラフィナが立っていた。
「せ……」
女性の護衛が何か言いかけて、慌てて言葉を飲み込み下を向く。
他の2人も慌てて目を伏せた。
メシエから来た3人には、セラフィナが何者かすぐに分かったんだろう。
「そして、私も行くわ。今なら話を聞いてくれそうだし」
「えっ?!」
「行って大丈夫なの?」
「「「……!」」」
まさかのセラフィナ同行希望に、ミィファさんも俺も、ミセジ神官と護衛2人も驚いた。
セラフィナは実兄に命を狙われていたのでは?
「行くわ。勇者認定を急がなきゃならない理由に心当たりがあるの」
「なら、僕も行くしかないね」
セラフィナが言う「心当たり」が何か、俺には分からない。
けれど、必要があるのなら、俺も行くしかないだろう。
◇◆◇◆◇
翌日。
俺とセラフィナはミセジ神官たちと共に、神聖王国メシエに向かう帆船に乗っていた。
今回は孤児院メンバーは同行できないので、ミィファさんは心配しまくっている。
バランさんたちは依頼で遠征に出ているので、今回は俺とセラフィナだけになってしまった。
『急ぐのだろう? 任せておきなさい』
船が港を出るとすぐ、海神ラメル様の念話が聞こえてくる。
俺が何も言わなくても、ラメル様は力を貸してくれた。
追い風と海流が、船を加速させる。
船はほとんど揺れもせず、滑るように進んでいく。
「すげぇ……」
「これが海神の加護か……」
船乗りたちは、通常ならありえない速度に驚いていた。
海賊船相手に派手にやらかしてきたから、船乗りの間では俺は有名人らしい。
ミセジ神官と護衛たちは、海に向かって手を合わせ、感謝の祈りを捧げていた。