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第63話:後ろにあるもの

「御用件は分かりました。でも勇者認定ってする必要あるんですか? 僕はもうS級冒険者の地位を貰っているので、国家には縛られませんが」


 何をしてほしいのか聞いてみたものの、俺は承諾するとは言っていない。

 コメルス支部長のシースリットさんが冒険者登録を急がせたのは、こういうことに備えたんだろう。

 正直、面倒そうな国に行きたくねぇ。

 アルキオネの目標は【冒険者】であって【勇者】じゃないからな。


「既に冒険者である方を、メシエ王家が縛ることはございません。大神殿で今代の勇者様を公式発表し、お渡ししたいものがあるのです」

「それは今すぐ必要なことですか? アルが成人するまで保留にすることはできないのですか?」


 ミセジ神官は、ここでは言えない事情も抱えているようだ。

 ミィファさんは俺を抱く腕に力を込めて問いかける。


「……今の法王様が存命のうちに、お会いしたいと望んでおられます」

「アル、行ってあげて」

「?!」


 ミセジ神官が声のトーンを下げて言った直後、俺たちの背後からセラフィナの声がする。

 ミィファさんが驚いて振り返るから、必然的に俺の視線もそちらを向く。

 そこには、いつの間にかセラフィナが立っていた。


「せ……」


 女性の護衛が何か言いかけて、慌てて言葉を飲み込み下を向く。

 他の2人も慌てて目を伏せた。

 メシエから来た3人には、セラフィナが何者かすぐに分かったんだろう。


「そして、私も行くわ。今なら話を聞いてくれそうだし」

「えっ?!」

「行って大丈夫なの?」

「「「……!」」」


 まさかのセラフィナ同行希望に、ミィファさんも俺も、ミセジ神官と護衛2人も驚いた。

 セラフィナは実兄に命を狙われていたのでは?


「行くわ。勇者認定を急がなきゃならない理由に心当たりがあるの」

「なら、僕も行くしかないね」


 セラフィナが言う「心当たり」が何か、俺には分からない。

 けれど、必要があるのなら、俺も行くしかないだろう。



 ◇◆◇◆◇



 翌日。

 俺とセラフィナはミセジ神官たちと共に、神聖王国メシエに向かう帆船に乗っていた。

 今回は孤児院メンバーは同行できないので、ミィファさんは心配しまくっている。

 バランさんたちは依頼で遠征に出ているので、今回は俺とセラフィナだけになってしまった。


『急ぐのだろう? 任せておきなさい』


 船が港を出るとすぐ、海神ラメル様の念話が聞こえてくる。

 俺が何も言わなくても、ラメル様は力を貸してくれた。


 追い風と海流が、船を加速させる。

 船はほとんど揺れもせず、滑るように進んでいく。


「すげぇ……」

「これが海神の加護か……」


 船乗りたちは、通常ならありえない速度に驚いていた。

 海賊船相手に派手にやらかしてきたから、船乗りの間では俺は有名人らしい。

 ミセジ神官と護衛たちは、海に向かって手を合わせ、感謝の祈りを捧げていた。

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