オレの名前は学園ラブコメ。
みんなからは「ガク」って呼ばれている。
長所は裏表のないところ。短所はちょっとばかりキレやすいところだな。
ちなみに、高校に入ってからの転校回数は99回だ。つまり、ここが記念すべき100校目の高校ということになる。
盛大な拍手、ありがとう。
いやいやいや、そんなに誇れるものではないよ。
だが、まあ、諸君らも気になっているだろうし、転校の理由も包み隠さず発表しようと思う。
理由はそんなに多くない。
オレのことを「ラブコメ君」と呼んできた男子を殴って病院送りにしたからという理由が98回。
「ラブちゃん」と呼んできた女子を睨みつけて、泣かせて不登校にさせたからという理由が1回。
合計99回だ。
そう、あと1回で記念すべき100回目の転校を迎えることになる。
オレはそれをとても楽しみにしている。
自己紹介は以上だ。
みんな、オレのことは「ガク」って呼んでくれよな。
よろしくー。
と、ここまで徹夜で暗記してきた自己紹介文を早口でまくし立ててから、ようやく一息吐く。
教室を見渡――どういうことだ?
「女子しかいねぇ……」
なんだここは……。
「学園ラブコメさん、ようこそ『私立百合百合女子学園』へいらっしゃいましたぁ。みなさん拍手~」
担任の……名前は忘れたが、米粒みたいにちっちゃい……米粒先生が目を細めて拍手をする。釣られて教室内からまばらに拍手が沸き起こった。
「女子学園……? ここ女子高……?」
「そうですよぉ。ここは先生も生徒も女子しかいない、完全男子禁制の女子高ですよぉ♡」
「なん、だと……」
どうせすぐ次の学校に転校すると思って、ロクに調べてもいなかったわ。
女子高? 素行の悪いオレがこんなお嬢様学校っぽいところに転校して大丈夫だったのか?
「オレは……」
人に言えない秘密が……。
「大丈夫ですよぉ。この学園にいるのは、みんな同じですからぁ」
「同じ……だと?」
米粒先生はにんまりと笑うと、教室の隅に置いてあった古びた脚立を引っ張ってくる。ギシギシと脚立を軋ませて3段ほど登ってから、オレの耳元に口を寄せてきた。
「この学園にいるのはぁ、女の子が好きな女の子ばかりなんですよぉ♡」
「なん……だと……」
それじゃあ――。
「そう、み~んな、ラブちゃんと同じです♡」
オレと同じ……だと……!?
ていうか、この先生……ずっと隠してきたオレの秘密に気づいているのか⁉
だがそんなことよりも――。
「……オレのことを『ラブちゃん』って呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
オレの名前は学園ラブコメ。
みんなからは「ガク」って呼ばれている。
ちなみに生物学上の性別は女子だ。
だが、オレの恋愛対象の性別も女子なんだ……。
このことは、墓場まで持っていくつもり……だったオレの秘密。
どうやら米粒みたいな先生にはバレているらしい……。
オレは目つきが悪い。
とんでもなく悪い。
どれくらい目つきが悪いかというと、好意を寄せた
むしろオレが泣きたい……。
この顔は生まれつきなんだよぉぉぉぉぉぉ!
オレもかわいい子と付き合いてぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
だかしかし……ここは女子が好きな女子しかいない女子高……。
オレにもワンチャンある……のか?
いやいや、さすがにそれはないか。
さすがにそんなうまい話があるわけない……よな?