「は~い、みなさ~ん。ラブちゃんと仲良くしてあげてくださいねぇ♡」
「だからオレはラブちゃんじゃねぇ! ガクって呼んでくれ……って、完全にラブちゃん呼びが定着してやがる……」
そこかしこから「ラブちゃん」コールが⁉ なんだこの黄色い歓声は!
みんながオレに注目してやがる……。
熱い視線を感じる……何だこれ……何だこれ……正直気持ち良すぎるじゃねぇか!
行けるのか⁉
オレでも行けちゃったりするのか⁉
お持ち帰りしちゃう⁉ 今日卒業しちゃう⁉
「ラブちゃんどうしますかぁ? 今『ラブちゃん』って呼んだ子をみ~んな泣かせて、記念すべき101校目に転校しますかぁ?」
この先生……全部見透かしたような笑顔で……腹立つわー。
「もう好きにしろ!」
ああいいさ! もうちょっとだけこの学園にいてやろうじゃないか!
そしてバラ色の……ユリ色の学園ライフを手に入れてやるっ!
「だがよ、先生。このクラス……ちょっとばかり生徒の人数が多くねぇか? 普通1クラスは30人から40人くらいのもんだろ? 軽く倍くらいはいるよな? 視線の圧力がすげぇ……」
なんていうか、教室がかなり広いよな?
100校見てきたオレだからその違いに気づくのかもしれないが、普通の高校の教室は、こんなふうに大学の講堂みたいにすり鉢状になっていないからな? 1人1つ机があるにはあるが、1番奥の生徒は階段を5段くらい上がったところに席があるし……。すっげぇ見下ろされているわ……。あ、目が合った。ゆるふわパーマでかわいい……。お近づきになりたい……。手を振ってきた! オレのこと好きなの⁉
「うちの学園は1クラス100人でやっているのよぉ♡ 密集隊形で授業を受けたほうが気持ちいぃぃぃでしょぉ♡」
「100人って……いや、マジでここは大学か何かなのか?」
大学付属の高校だからこういうスタイルになっているとか?
「え~、先生が大学生に見えちゃうってぇ? やだもう、ラブちゃんお世辞がうますぎよぉ♡」
急に脚立のてっぺんに座って、クネクネダンスを披露しだす米粒先生。
いや、ぜんぜん見えませんけど? ギリ小学生……気を抜くと幼稚園生くらいだな……。って、この先生の奇行を見て、クラス全員で完全に無視かよ……。もしかしてこれ、日常茶飯事?
「いやんもう♡ 花の女子大生が授業を始めちゃおかなぁ♡ 1時間目の授業はHRでぇ、次の百合百合祭――文化祭でのクラスの出し物について話し合う時間だからねぇ♡」
「なあ、おい……」
クネクネしながら話を先に進めないでくれ。
「なぁに、ラブちゃん? 先生のことはハニーって呼んでくれて良いのよぉ?」
「それは……遠慮しておきます……」
何らかの児童暴行的な罪で捕まりたくないので、年下には手を出さないように気をつけているんだ。悪いな。
そんなことよりオレ、自己紹介した後からずっと黒板の前に立ったままなんだが? このまま授業に入るのはやめてくれないか?
「授業に入る前に、オレの席がどこなのかを……」
「忘れてたわぁ。ラブちゃんの席はどこかなぁ~? 空いている席、空いている席~」
米粒先生が脚立の上に立って教室を見まわし始める。
おい、脚立の上に登ったら危ないぞ⁉
って、うるせーーーー!
何だ、お前ら⁉ 一斉に騒ぎ出しやがって!
え、オレを隣にって呼んでやがるのか?
めっちゃうれしい……けど、お前らの隣、席空いてねぇじゃん。
「は~い、みなさんお静かにぃ」
米粒先生が手を叩いて生徒たちの注目を集める。
ちなみに、先生はずっと脚立のてっぺんに立ったままだ。真下に立っているオレには、黒のレースのスケスケなアレがずっと丸見えなわけだ。ふんわりしたワンピースなので、おへそまでガッツリ見えている。その下着のチョイス……幼稚園生ではないのは認めよう。だがな……腰のくびれがなさすぎだよ。
おい、ちょっと待て。
誰だ今の!
「オレのことをラブラドールレトリバーって呼んだヤツは! 本名より長くなっちゃってるだろ……」
「えっとぉ、ワンちゃんのお席は~」
「おい、ラブラドールに引っ張られてるぞ」
「空気嫁ちゃんの席は~」
「それはラブドールって、ボケが強引すぎるだろ!」
なんなんだ、この米粒先生は。
「空いていないみたいだから、ラブちゃんの席は先生のお膝の上ね♡」
もう絶対ツッコまないぞ。
「ラブちゃん、早く座ってぇ♡」
脚立の上にちょこんと座るな。
普通に危ないからな?
って、いけない。無視無視。
いやいや、この教室の生徒たち、やっぱりおかしくね?
なんで「私の膝に座ってー」ってあちこちで声が上がってるの? なんなの? ホントにみんな百合の人たちなの? うれしいけれど、このクラスの風紀は大丈夫なの?
「え~んえ~ん。先生フラれちゃったみたいだから、ラブちゃんの席は……イインチョーのメグミちゃんの隣が空いているからそこね……グッスングスグスグスリンコ」
「はいわかりましたー。ありがとうございますー」
さっさとこのヤバい先生から距離を取ろう。
オレの席は委員長のメグミちゃんの隣、と。
席が空いているのは……お、あった。あそこかな?