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第3話 たぶんパンダは『パンダ』って鳴かねぇだろ……

 席が空いているのはここか。

 おそらくこの子が委員長のメグミちゃん。


「学級委員長って……お前?」


 三つ編みに丸眼鏡。眉上で切り揃えられた前髪が几帳面さを表していて、モロに委員長っぽい。

 だが眼鏡を外したら、かなりの美少女と見た! 美少女(仮)と隣の席になれてラッキー!


「私は学級委員長なんかじゃありません」


 うぉー! 眼鏡外してきたー! 予想以上だ! めっちゃかわいいじゃねぇか! まさかアイドルがお忍びで通っているとかなのか⁉


「えっ、そうなのか? オレの聞き間違いか……。まあでも……オレの席はそこ、で良いんだよな? ととと隣の席だな! オレ、学園ラブコメって言うんだ。よろしくな!」


「はい。学園ラブコメさん、よろしくお願いいたしまっ」


 ゴンッ。


 最後まで挨拶し終わるか終わらないかのところで、ものすごい鈍い音が……。

 まさか、座ったまま頭を下げた拍子に、机におでこをぶつけたのか⁉ 委員長でドジっ娘属性⁉


「はい、もしもし? メグミです」


「着信音かーい! 紛らわしいわっ! そしてホームルーム中に普通に電話に出るなっ!」


「失礼。アラームでした」


「どんな時間にアラーム鳴らしてんだよ! これから授業だろ!」


「いいえ、そろそろおやつの時間なのです」


 と、メグミちゃんが机の脇にかけてあったカバンから、バナナを丸々1房取り出して机の上に置いた。

 ちょっと緑がかっていてまだ硬そうなバナナだ。


「待て待て。まだ朝の9時だぞ? もう少しで1時間目が始まるところだろ!?」


 せめておやつの時間まで待てぃ!


「私は前世がパンダなので1時間に1本バナナを食べないと死んでしまいます」


 それはゴリラ……。コイツ、畳みかけるようにボケを繰り出してきやがる……。これ以上付き合ったら、たぶん身が持たねぇ……。悪いがスルースキルを発動させてもらうぜ!


「自己紹介が遅れました。私、委員長のメグミと申しますパンダ」


 取ってつけたように語尾にパンダ……。たぶんパンダは『パンダ』って鳴かねぇだろ……。


「いや、やっぱり学級委員長じゃねぇか。何メグミさん? 一応フルネームを教えておいてくれ。隣の席だしちゃんと覚えるから、さ?」


 頭おかしいボケキャラだけど、顔はかわいいからな!

 下心だけで対応してやるぜ!


「私は学級委員長ではありません。委員長のメグミです」


「ん。学級委員長じゃないのか? じゃあ何の委員長なんだ?」


 保健委員とか、図書委員とか?


「何の組織にも属していません。私の名前は委員長のメグミです」


 どういうことだってばよ……。

 オレは頭がおかしくなったのか……?


「ラブちゃんおもしろいッショ!」


 いてぇ。

 オレの背中をフルスイング張り手で叩いてくるヤツは誰だ⁉


「学級委員長はわたし~。マツタセイコッショ!」


「まさかの松田聖子⁉ その髪型、いで立ち! ものすごく80年代のアイドルっぽい!」


 聖子ちゃんカット!

 歴史の教科書で見たことある!


「違うの~違うのッショ!」


 と、松田聖子ちゃんが苦笑しながら首を振る。


『ッショ』はお気に入りの語尾なのかな? 松田聖子はそんなしゃべり方じゃなかったような?


「わたしの苗字は『マツタ』。タチツテトの『タ』濁らないッショ。漢字で書くと松田聖子の『松』に多いの『多』で松多ッショ」


「惜しいなっ! オシイセイコ!」


 顔もけっこう似ているし、髪型も雰囲気もイメージは完璧に往年のアイドルなのに!


「オシイセイコッショ! ラブちゃんノリが良いッショ! 気に入っちゃったッショ! お近づきのしるしに、放課後カラオケルームに行くッショ。2人きりで松田聖子メドレー聴かせてあげるッショ♡」


「お、おう……考えておくわ」


 学級委員長のセイコちゃん、意外とグイグイ来るタイプなのな。

 スタイルは細身でなかなか魅力的なんだけど、顔もアイドル顔なんだけど……オレの好みよりはちょっと古いなーと。あと『ッショ』が微妙にイラっとする! まあ、悪くはないからキープで!


「それでそれで、メグミちゃんは何の委員長何だっけ?」


 まずは本命のメグミちゃんが気になるッショ!

 この謎のほうを解いておきたい! じっちゃんの名にかけて!


「だからね~、その子は、委員蝶野メグミちゃん。『委員蝶野』が苗字ッショ。委員会の『委員』にプロレスラー蝶野正洋の『蝶野』で『委員蝶野』ッショ」


「はい。委員蝶野メグミです。どこの委員会には所属していません。バナナ部の部長です」


 ガッデムッ!


「委員蝶野⁉ 苗字珍しすぎかっ! それとバナナ部って何する部活よ⁉」


 くっ、ダメだ……。さすがにツッコまずにはいられなかった。

 メグミちゃんめ……勝ち誇ったような顔しやがって……。まさかツッコミ待ちだったとは……。かわいいけれど、そのドヤ顔は超むかつく! でもかわいい! くそぉぉぉぉぉ!


「ラブちゃ~ん? 先生これから授業を始めますから少しだけ静かにね~?」


 ああっ、米粒先生に怒られた……。

 ついつい大声でツッコんじまったから……。メグミちゃん、今日のところはオレの負けだよ。


「って、今度は何食べてんだーーーーーー!」


 メグミちゃんはバナナの房を机の脇にずらして、四角い弁当箱を――。


「シュウマイ弁当ですが何か? ほしいんですか?」


「いらんわっ! まだ1時間目だぞ!」


 しかもそれ、紐引っ張ってシューってあっためるやつ! 駅弁のやつじゃん! うわっ、めっちゃシュウマイ臭くなってきた!


「イインチョーちゃ~ん?」


 ほらきた! 米粒先生にめちゃんこ怒られろ! シュウマイ弁当シューってした罪で投獄されろ! ここが新幹線ならシュウマイ警察に即時処刑されているところだぞ!


「先生にもシュウマイ1個ちょ~だい♡」


「おい、先生! 今授業中やぞ! ちゃんと叱れよ!」


「先生、またですか?」


 メグミちゃんがため息を吐く。


「またぁ⁉」


 まさかいつもこんなことをやっているのか⁉


「1個100円ですからね」


 高いわっ! ぼったくり過ぎるだろ!


「ん~、カラシもつけてね♡」


 100円払うのかーい!


「わかりました。カラシはサービスにしておきます」


「はい、どうぞ。あ~ん」


 メグミちゃんが豪快に素手でシュウマイを掴んで、あーん⁉ 今シューって温めたばかりなのに熱くないの⁉


「あ~ん♡ んん~、イインチョーちゃんの……お・い・し・い♡ んっ♡ ああん♡ んっんっ♡」


 おい、米粒! それはシュウマイのことだよな⁉ チュパチュパ舐めているメグミちゃんの指のことじゃないよな⁉


「ラブちゃんどうしたのかなぁ? そんなに物欲しそうに見つめちゃってぇ。ラブちゃんもイインチョーちゃんに『あ~ん』してほしいの?」


「いや……お、オレは……別に……」


 正直……めっちゃうらやましいです!

 オレも指チュパしたいですっっっ!


「わたしのも食べて~!」


「私も私も~♡」


「あ~! ミナミのも~!」


「ね~ちゃんのも食べてぇ」


「私のも!」


「あ~しのも」


「あっしのも」


「おいどんのも」


 クラスメイトが一斉に集まってきた⁉


「って、お前ら全員シュウマイ弁当シューってやってんじゃねぇよ! 水蒸気で教室見えなくなってんじゃん!」


 何なのこのクラス⁉ シュウマイ弁当大流行なの⁉


「いてっ! 無理やり口に! 爪! おい! 誰だ! 付け爪いてぇわ! 無理やり詰め込むなって! そんなに食えねっ……もごっ⁉」


 5個も10個もシュウマイ一気に口に突っ込まれたら窒息死するわ!

 あと、オレはカラシいらねぇから! 辛いの苦手だし!


 モグモグモグ。

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