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第14話 お風呂に入らないで寝ようとしている悪い子はおらんじゃろうな~?

「んーーーー、今日はたった1日でいろいろなことがあったな……」


 まさかオレが男子を殴らずに1日過ごせるとはなあ。

 まああれだ。女子高で男子がいないんだから当たり前か。ムカつく男子がいないってだけでも女子高は良い。そしてかわいい子がいっぱい……。なんで今までずっと共学を転々として来てしまったのか……。なぜオレはあんなムダな時間を……。


 ということはだ!

 これまで99回転校したのは全部男子のせいってことじゃね? 女子高なら、ほらこの通り! 1日何も問題を起こさなかったわけだし、オレってぜんぜん悪くないってことじゃん? あ、ウソだ……。最初の1回目は女子を――レンコちゃんを泣かせて……。さすがに顔もあんまり思い出せないが、たぶん好きだった……んだよな。レンコちゃんどうしてるかな。


「って、やめやめ! もう昔のことだから忘れる! この学園でならオレもやっていけそうだし!」


 クラス全員、もれなくすっげぇ頭おかしいけど、なんだかんだいってみんな優しいよな。転校を繰り返しているオレのことを見ても、邪魔者扱いせずに普通に接してくれるし。


 メグミちゃんとミナミちゃんに至っては、自分の部活まで辞めて、オレと新部を立ち上げてくれて。……だけど『ラブ♡ラ部』って名前は許さん! メガミちゃんは1回泣かす! 野球拳でソックスだけ脱がして1回泣かす!


 コメコ先生もバナコ先生も生徒に手を出すヤバい先生だけど、きっと良い先生……なわけないよな。絶対距離を取ったほうが良い……。そうだ、お風呂に一緒に入るのはヤバい。どうしよう。内風呂とかシャワー室とかないのか? そもそも風呂場ってどこ? 大浴場みたいなのがあるのかどうかも教えてもらってなかったな。


「今日は風呂キャンセルだ! 絶対そのほうが良い!」


 部屋の鍵を閉めて籠城だ!

 城の中なのに籠城ってなんか変な感じするけどさ。


 鍵を閉めてチェーンロックをかけて……これで合鍵を持っていたとしても入って来れないだろ。


「よーし、もうちょっとだけ夕飯をいただいたらさっさと寝るかな。今日はいろいろありすぎて疲れたし」


 お、ピザをほうれん草とチーズサグパニールカレーにつけて食べると案外うまいな♡ ギョウザもいける……。カレーって何にでも合うな!


 んー、全裸寮のみんなって、今何してるんだろうなあ。みんなでお風呂に入って体の洗いっことかしてるのかなあ。オレも混じりたい……。なんでアンケートの答えを間違っちゃったんだろ……。だけど無理だよな。


『なぁ……スケベしようや……』


 なんだあの質問? 冷静になって考えてもやっぱり意味がわからん。どういうテンションなら、あの質問に『はい』って答えられるんだ……?


【ガ~ク~く~ん♡】


「なんだなんだ⁉」


 部屋中にバナコ先生の声が響いて⁉


【お風呂の時間じゃ♡】


 部屋に設置されたスピーカーからバナコ先生の声が聞こえるぅ!

 怖い怖い怖い!


 いや、大丈夫なはずだ!

 鍵は閉めてあるし、チェーンロックもしっかりとかけてあるから先生は入って来れない! しばらくすれば先生も諦めるだろ! よし、夕飯の残りを冷蔵庫に仕舞ってもう寝ちゃおう! 寝たふりをすれば大丈夫なはずだ!


 あーあー、4つもベッドがあるんだった!

 どこで寝よう……。とりあえず……入り口から1番遠いところにしとこ!


 部屋の電気をオレンジの常夜灯に切り替えて……頭まで布団を被って……よし、おやすみなさい!


【お風呂に入らないで寝ようとしている悪い子はおらんじゃろうな~?】


 もう疲れて眠っちゃっているので何も聞こえません!


【先生とお風呂に入るのじゃ~♡ 体の隅々まで洗ってあげるのじゃ♡】


 寝てます!


【アカスリの施設もあるでの。ミストサウナも、炭酸泉も、フルーツ湯も用意してあるぞえ♡】


 ここはスーパー銭湯か何かなのか?


【お風呂上りのビールは最高なのじゃ♡】


 オレは未成年ですけど?


【バレなければ大丈夫なのじゃ♡】


 教師が言って良いセリフじゃねぇな。って、オレの心の声に答えた⁉ まさかな。


【かわいいかわいいガクくんはどこかの~? かくれんぼが好きなガクくんを探そうかの~?】


 バナコ先生、ぜんぜん諦めないじゃん……。


【ガクくんの隠れている場所がぼんやり光っておるのぉ。先生には見えているぞえ】


 適当に言っているだけなんだろうけど、めっちゃ怖い……。

 でも大丈夫。絶対部屋には入って来られない!


【お風呂に入らずにベッドに入ってはいけないぞえ】


 えっ、まさか見えている⁉

 部屋に監視カメラとかついているのか⁉

 どこだ⁉ えっ、掛け布団を剥いだら部屋が真っ暗に⁉ いつの間に電気を消されたんだ⁉ 怖い! 真っ暗はやめて!


【ガ~ク~く~ん♡】


 ちょちょちょ! ツルが⁉ 部屋の入口のほうから光るツルが飛んできているぅ⁉ え、やだやだやだ! なんでいるの⁉ ツル怖いっ!


【み~つけた~♡】


 バナコ先生の声が、耳元で聞こえた……気がした。



「はっ⁉」


 目が覚めると、カーテンの隙間から差し込んだ光で、うっすらと部屋の中が明るくなっていた。


「朝だ……」


 いつの間にか寝ちゃっていたんだな。


 すっげぇ怖い夢を見た気がする……。寝汗がすごい……。


「そうだ、監視カメラ⁉」


 ベッドから飛び起きて、部屋中を歩いて確認してみる。

 天井にも壁にも、本棚の隙間にも、それらしきものは見当たらなかった。部屋の四隅にあるのはスピーカーだけだな。


「さすがにそんなわけないか……」


 先生が生徒の部屋に監視カメラを仕掛けるなんてありえないよな……。昨日のあれは当てずっぽうで言っていただけってことだろう。


 あれ? でも最後……部屋の入り口から光るツルが……。


「入り口の鍵は⁉」


 ちゃんと掛かっているな……。チェーンロックもかかったままだ。

 そもそも部屋の電気も寝る前に常夜灯に切り替えた時のままになっているしな。


 あの光るツルは夢か……。


 リアルすぎて怖かった……。


【ガ~ク~く~ん♡ お~は~よ~なのじゃ♡】


 バナコ先生の声がスピーカーから⁉


「お、おはようございます……」


【昨日はよく眠れたかえ?】


「気づいたら朝でした……」


 って、スピーカーの声に答えても聞こえるわけないよな。


【それは良かったのじゃ♡ 朝食を用意して部屋の外に置いておいたぞえ。今日も元気に登校するのじゃ】


 今オレの声に答えた……?

 まさかな。


 部屋の鍵とチェーンロックを外して扉を開けると、小さなテーブルワゴンが置いてあった。

 フードカバーを外すと、中から湯気が立ち昇ってくる。

 ご飯、お味噌汁、卵焼き、それにアジの開きだ。純和風の朝食!


「朝食の用意までありがとうございます! 食堂が使えるようになったらオレが何か作りますからね」


 何もかも先生にやってもらうのは気が引けます……。

 なので、絶対に覗いてはいけない食堂をなんとかしてください。


【今日中に片づけておくのじゃ。ガクくんの手料理、楽しみにしておるぞえ♡】


 耳元でバナコ先生の声がする。

 うぉ⁉ どこにいるんだ⁉ 相変わらず姿が見えないまま……。どんな手品を使っているんだろうな。


【登校時間まであまり時間がないからの。早めに朝食を済ませるのじゃ】


「は、はい!」


 まさか2日目から遅刻するわけにはいかない!


【それと、寝ぼけてそのままの格好で登校しないように注意じゃ♡】


 そのままの格好?

 あ、そうか。オレ昨日制服のまま寝……てない! えっ、ツルのナイトガウンを着ている、だと……!? え、待って待って。オレ、いつナイトガウンに着替えたんだっけ⁉ 記憶にないぞ……? 昨日は制服のままベッドにもぐりこんで布団を頭からかぶって……入口から光るツルが……。いや、でもあれは夢のはずだ。部屋にはオレしかいないし、朝起きた時には鍵もチェーンロックもかかっていた……。


 えっ、マジで何⁉

 無意識のうちに着替えたってこと⁉


【早く朝食を食べるのじゃ。そして昨夜のうちにクリーニングしておいた制服に着替えるのじゃ♡】


 いつの間に制服のクリーニングを⁉


 いやーーーーー! 怖いーーーーーーーー!


【さて、今日も楽しい学園生活の始まりじゃ♡】


 やだーーーーーー! 誰か助けてーーーーーーーーーーー!


≪続く?≫

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