城の壁という壁に貼られたオレの写真を見ながら(むしろ見られながら?)、らせん階段を上がっていく。
写真の間に貼られた『愛の巣はこっちじゃ♡→』という案内板に沿ってな……。
たぶんオレの部屋のこと、なんだろうなとは思うが……。
【食堂はちと事情があって使用できぬのでな、しばらくは部屋食で頼むぞえ】
「あ、はい……」
事情って何だよ……。
もう全部が怖いんだけど……。
【何があっても食堂だけは絶対覗いてはいかんぞえ】
怖いーーーーーー!
もしかしてあれか⁉ 昔話に出てきた山姥が包丁研いでるやつか⁉ まさかオレを食べるため⁉ いやー! 誰か助けてーーー!
【ツルが機織りしているでの】
「山姥じゃなくてツルかよ!」
食堂で機織りすんな! むちゃくちゃ紛らわしいわ! てか、何度も言うけど、オレはツルなんて助けてねぇからな!
【ツルがVIO脱毛した毛で織ったシルクのナイトガウンじゃ】
これは見事なツルの柄が入ったナイトガウンで――。
「って、待て待て待てー! この学園ってVIO脱毛流行ってんの⁉ なんでみんなツルツルにしてんの? いや、そもそもシルクだったら蚕の繭だろ! やっぱり脱毛の件もツルの件も関係ねぇじゃん!」
なんでみんなして下の毛の話が好きなんだよ⁉
オレ、そういう直接的なのはあんまり好きじゃないんだよな……。
【ガクくん、よく見るのじゃ】
「……何をですか」
まだ何かあるのかよ。
【そのナイトガウンにツルの柄が入っているじゃろ?】
「……入っていますね。それが何か?」
【喉と後ろの黒い毛が我の毛じゃ♡】
そういうのやめてー⁉
え、マジじゃん。ここだけなんか素材が違う⁉ えー、シルクじゃないじゃん。ホントやめて⁉
【もちろん冗談じゃ。フェイクファーなのじゃ】
「もうっ!」
気が動転しすぎて、アルコール消毒液を手にぶっかけたわ!
【びっくりしたかえ?】
「マジでびっくりしましたって! そういうのやめてもらえます⁉」
【ほら、我はもともとそんなに毛が濃くないからの。残念ながらツルの柄にするほどは毛が取れないのじゃ♡】
「知りませんけどー⁉」
なんで出逢った初日から、先生の下の毛の事情に詳しくならないといけないんですかね⁉
その情報より先に、普通に顔を見せてもらっても良いですか⁉
【そのナイトガウンはお風呂に入った後に着て寝るのじゃぞ。我が夜這いを仕掛ける時にすぐにみつけられるようにの♡】
「えっと……どういうこと……」
【ライトオフなのじゃ♡】
指をパチンと鳴らす音。
廊下の照明が落ち、辺りが真っ暗になる。
「ちょっと! オレ暗いのダメなんです! 怖い怖い怖い!」
オレンジ色の豆電球をつけないと寝られないの!
って、ナイトガウンのツルが光ってるぅ! 真っ暗闇にツルが浮かび上がってるぅ!
【ブラックライトで光るように、ツルの部分に蛍光剤が塗ってあるからの♡】
「仕込みが細かい! いや、もうわかったから電気つけてー!」
暗いよー! 怖いよー!
【ガクくんはかわいいのぉ♡ 丸飲みにして食べてしまいたいくらいじゃ。ツルだけに】
バナコ先生のクスクスという笑い声とともに、廊下の明かりが点く。
助かった……。
もうツッコまないぞ⁉
だけどたぶん、いろいろ丸飲みにするのは、ツルじゃなくてアホウドリ……。
お? この看板は?
『♡♡♡ガクくんとバナコ先生の愛の巣♡♡♡』
ということは、ここがオレの寮部屋ってことか……。
先生と一緒の部屋は正直嫌だな……。
【ここがガクくんの部屋じゃ♡ 部屋の中はリフォーム済みじゃ。夕食も運んであるでの。20時にはお風呂で待ってるぞえ。食事は別々。お風呂は一緒じゃ♡】
「はぁ……ありがとうございます……」
食事を一緒にしないのは、姿を見られたくないからなのかな。でもお風呂に一緒に入るんなら、その時には顔が見える……顔どころか全身が見えちゃう⁉ ツルツルのバナコ先生が! いや、でも裸で相対するのはかなり怖いな……あの人ガチっぽくて……。今日のところはどうにか断りたい……。
【お風呂で待ってるぞえ♡】
強調してきたぁ……。
と、とりあえず……無視して部屋に入るか……。
「うわー、こう来ましたか……」
めちゃくちゃ少女趣味!
壁も床もパステルカラーだなあ。ピンクと白多め。
それよりもだ……。
「やっぱりここ100人部屋じゃん……」
広すぎて落ち着かないわ……。
ホテルの大広間じゃないんだからさ……。
部屋の四隅に天蓋付きのベッドがあるとか意味わからない……。あとさ、室内にトランポリンとかいらないからな? さすがにスペース余り過ぎて、レイアウトに迷ったろ?
「まあ、もういいや……。お腹減ったし食事……。ウーバーの配達バッグのまま置きっぱなしかよ」
そこはテーブルに並べたりはしてくれないのな。
って、多い多い多い。
ピザ、パスタ、スシ、ギョウザ、カレー、ナーーーーン!
「こんなに食えるかぁ!」
先生と2人でも多いわ。
あ、部屋に冷蔵庫があるのか。食べきれない分はしまっておいて明日食べる……それでも余りそうだから、学園に持って行ってみんなに振舞おう。さすがにクラス100人で食べれば賞味期限切れる前にいけるだろ。
ん、チーズナンだ! まだあったかいしチーズが伸びーーーーる!
うまうま♡