目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第13話 ちょっと! オレ暗いのダメなんです! 怖い怖い怖い!

 城の壁という壁に貼られたオレの写真を見ながら(むしろ見られながら?)、らせん階段を上がっていく。

 写真の間に貼られた『愛の巣はこっちじゃ♡→』という案内板に沿ってな……。

 たぶんオレの部屋のこと、なんだろうなとは思うが……。


【食堂はちと事情があって使用できぬのでな、しばらくは部屋食で頼むぞえ】


「あ、はい……」


 事情って何だよ……。

 もう全部が怖いんだけど……。


【何があっても食堂だけは絶対覗いてはいかんぞえ】


 怖いーーーーーー!

 もしかしてあれか⁉ 昔話に出てきた山姥が包丁研いでるやつか⁉ まさかオレを食べるため⁉ いやー! 誰か助けてーーー!


【ツルが機織りしているでの】


「山姥じゃなくてツルかよ!」


 食堂で機織りすんな! むちゃくちゃ紛らわしいわ! てか、何度も言うけど、オレはツルなんて助けてねぇからな!


【ツルがVIO脱毛した毛で織ったシルクのナイトガウンじゃ】


 これは見事なツルの柄が入ったナイトガウンで――。


「って、待て待て待てー! この学園ってVIO脱毛流行ってんの⁉ なんでみんなツルツルにしてんの? いや、そもそもシルクだったら蚕の繭だろ! やっぱり脱毛の件もツルの件も関係ねぇじゃん!」


 なんでみんなして下の毛の話が好きなんだよ⁉

 オレ、そういう直接的なのはあんまり好きじゃないんだよな……。


【ガクくん、よく見るのじゃ】


「……何をですか」


 まだ何かあるのかよ。


【そのナイトガウンにツルの柄が入っているじゃろ?】


「……入っていますね。それが何か?」


【喉と後ろの黒い毛が我の毛じゃ♡】


 そういうのやめてー⁉

 え、マジじゃん。ここだけなんか素材が違う⁉ えー、シルクじゃないじゃん。ホントやめて⁉


【もちろん冗談じゃ。フェイクファーなのじゃ】


「もうっ!」


 気が動転しすぎて、アルコール消毒液を手にぶっかけたわ!


【びっくりしたかえ?】


「マジでびっくりしましたって! そういうのやめてもらえます⁉」


【ほら、我はもともとそんなに毛が濃くないからの。残念ながらツルの柄にするほどは毛が取れないのじゃ♡】


「知りませんけどー⁉」


 なんで出逢った初日から、先生の下の毛の事情に詳しくならないといけないんですかね⁉

 その情報より先に、普通に顔を見せてもらっても良いですか⁉


【そのナイトガウンはお風呂に入った後に着て寝るのじゃぞ。我が夜這いを仕掛ける時にすぐにみつけられるようにの♡】


「えっと……どういうこと……」


【ライトオフなのじゃ♡】


 指をパチンと鳴らす音。

 廊下の照明が落ち、辺りが真っ暗になる。


「ちょっと! オレ暗いのダメなんです! 怖い怖い怖い!」


 オレンジ色の豆電球をつけないと寝られないの!

 って、ナイトガウンのツルが光ってるぅ! 真っ暗闇にツルが浮かび上がってるぅ!


【ブラックライトで光るように、ツルの部分に蛍光剤が塗ってあるからの♡】


「仕込みが細かい! いや、もうわかったから電気つけてー!」


 暗いよー! 怖いよー!


【ガクくんはかわいいのぉ♡ 丸飲みにして食べてしまいたいくらいじゃ。ツルだけに】


 バナコ先生のクスクスという笑い声とともに、廊下の明かりが点く。


 助かった……。

 もうツッコまないぞ⁉

 だけどたぶん、いろいろ丸飲みにするのは、ツルじゃなくてアホウドリ……。


 お? この看板は?


『♡♡♡ガクくんとバナコ先生の愛の巣♡♡♡』


 ということは、ここがオレの寮部屋ってことか……。

 先生と一緒の部屋は正直嫌だな……。


【ここがガクくんの部屋じゃ♡ 部屋の中はリフォーム済みじゃ。夕食も運んであるでの。20時にはお風呂で待ってるぞえ。食事は別々。お風呂は一緒じゃ♡】


「はぁ……ありがとうございます……」


 食事を一緒にしないのは、姿を見られたくないからなのかな。でもお風呂に一緒に入るんなら、その時には顔が見える……顔どころか全身が見えちゃう⁉ ツルツルのバナコ先生が! いや、でも裸で相対するのはかなり怖いな……あの人ガチっぽくて……。今日のところはどうにか断りたい……。


【お風呂で待ってるぞえ♡】


 強調してきたぁ……。

 と、とりあえず……無視して部屋に入るか……。


「うわー、こう来ましたか……」


 めちゃくちゃ少女趣味!

 壁も床もパステルカラーだなあ。ピンクと白多め。


 それよりもだ……。


「やっぱりここ100人部屋じゃん……」


 広すぎて落ち着かないわ……。

 ホテルの大広間じゃないんだからさ……。


 部屋の四隅に天蓋付きのベッドがあるとか意味わからない……。あとさ、室内にトランポリンとかいらないからな? さすがにスペース余り過ぎて、レイアウトに迷ったろ?


「まあ、もういいや……。お腹減ったし食事……。ウーバーの配達バッグのまま置きっぱなしかよ」


 そこはテーブルに並べたりはしてくれないのな。

 って、多い多い多い。

 ピザ、パスタ、スシ、ギョウザ、カレー、ナーーーーン!


「こんなに食えるかぁ!」


 先生と2人でも多いわ。

 あ、部屋に冷蔵庫があるのか。食べきれない分はしまっておいて明日食べる……それでも余りそうだから、学園に持って行ってみんなに振舞おう。さすがにクラス100人で食べれば賞味期限切れる前にいけるだろ。


 ん、チーズナンだ! まだあったかいしチーズが伸びーーーーる!

 うまうま♡

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?