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第12話 食事と寝床は別々。お風呂は一緒に入るのじゃ♡

「しかし不用心だな……」


 職員室には誰1人先生がいないのに鍵は開いたままなのって、セキュリティ的に大丈夫なものなの?

 職員室の扉に、『部室の鍵は私の机の上に置いておくのじゃ。馬七神社バナコ』って張り紙が貼ってあったし……。そもそもバナコ先生の机ってどこよ?


【ここじゃ】


「なるほど、ここかー。って今の声は誰⁉」


 えっ、職員室には誰もいないのに何で声だけ聞こえるの⁉ お化け⁉ オレ、オカルトだけはホントダメなんだよ……。ヤバいよ許してよ。こっくりさんこっくりさんおかえりください!


【我は昨日助けてもらったツルじゃ】


「なんだあの時のツルかあ。って助けてないわ! それさっきのメガミちゃんのやつ!」


 あれ? その声、なんだか聞き覚えがあるぞ?


「……もしかしてバナコ先生ですか?」


【正解じゃ。ガクくん、はじめましてなのじゃ】


 おお、合ってた!

「ガクくん」って呼ばれるとちょっとこそばゆいな。いや、今日1日で一生分「ラブちゃん」って呼ばれたから感覚がマヒしたわ、たぶん。


 だけどあれだ、相変わらず先生の姿が見えないな……。どこかに隠れているんですか?


「えーと、急に新部の顧問を引き受けてくださってありがとうございました。でもオレ、転校初日に部長になっちゃって……ホントに良かったのかな」


【問題ないのじゃ。我も暇じゃったからの。人間と遊ぶのもまた一興じゃろうて】


「えっと、あ、はい……」


 えっ、何なの?

 人間と遊ぶ? まるで自分が人間ではないような言い方……。姿が見えないし、やっぱりお化け⁉


【我の姿が見えないことがそんなに不安かえ?】


「はい……少し……」


 ホントはめちゃくちゃ怖いです!


【我は恥ずかしがり屋さんなのじゃ。人に姿を見せるのが苦手じゃからの。慣れてきたらそのうちな?】


 究極の人見知りみたいなものか。

 それでよく先生なんてやっていられるな。授業はどうしているんだよ……。


【部室の鍵を片づけたら、寮に向かうぞえ。門限の時刻が迫っておるでの】


「あ、はい。そういえば寮って門限があるんでしたね……」


【門限は18時じゃ。18時から翌5時までは何人たりとも寮からの出入りは許可されておらんでの。この規則を破ると……死ぬぞえ】


「死ぬ⁉ 校則で死ぬとかあります⁉」


 ホラー方面にからかうのはやめて⁉


【さすがに死ぬというのは大げさじゃったかの? しかしこの地は魑魅魍魎が跋扈するでの。陽の光が届かぬ時間帯に生身で外へ出るのはとても危険じゃ。死なずとも、肉体を乗っ取られるかもしれんから気をつけるのじゃ】


「その話を聞いて、オレは何に気をつけたら……」


 やっぱりホラーじゃん!

 完全にホラーの世界じゃん!

 魑魅魍魎とか何⁉ やっぱりオレがお化けとか苦手なのを知っていて、からかっているんですよね⁉ そう言って⁉


【じゃがな、安心するが良いぞ。この学園の寮は、四神獣が守護しているでの。安心して夜を過ごせるのじゃ】


「四神獣って……朱雀とか青龍とか?」


【この学園の神獣はバナナやトウモロコシじゃ】


「ぜんぜん獣じゃなくない⁉」


 どっちも黄色い野菜や果物じゃん! そんなので魑魅魍魎から人間を守れるの⁉


【北の『全裸寮』を守護するバナナ。東の『裸足寮』を守護するトウモロコシ。西の『裸眼寮』を守護するズッキーニじゃ】


「全裸寮以外にも、裸足寮と裸眼寮って言うのもあったんですね……」


 寮に入る時はそれぞれ裸足、裸眼なのかな。

 まあ全裸寮のルールからする、たぶんそうだろうな……。


 いやちょっと待って。なんでうちのクラスは全員、全裸寮に入ったの⁉ 普通に裸足寮とか、視力悪くないなら、裸眼寮ならノーダメージでは⁉


【じゃがの……残念なことに……ふぅ……】


 ため息を口で言わないでもらえます?

 姿が見えないから吐息だけだとため息だってわかりづらいのはそうなんですけどね……。


【すでに裸足寮と裸眼寮は、我らの手を離れてしもうたのじゃ……】


「まさか魑魅魍魎たちに占拠された⁉」


 すでに2拠点も奪われているなんて、めっちゃヤバい状況じゃん⁉


【そうではない。生徒不足で寮が取り壊しになって、それぞれトウモロコシ畑とズッキーニ畑になったのじゃ】


「魑魅魍魎関係なかった! 少子高齢化社会の影響!」


【そして一般寮も今年生徒が入ってこなければ、取り壊しが決まっておったのじゃ……】


 何だって⁉


【今、一般寮に住んでいるのは我1人だけじゃからの……】


「それじゃあ生徒は0人⁉ 全学年合わせて⁉」


 もはや学園経営の危機レベルの生徒不足では⁉


【恥ずかしがり屋さんの我にとっては、1人で暮らせる一般寮は天国のような場所じゃったのに、生徒を入れなければ取り壊すと……。金ならあると札束を積んでも、理事長は首を縦に振らなんだ……】


 あー、そういえばバナコ先生って謎にお金持っている人なんだっけか。メグミちゃんのパンツを2億で買ってたし。


「そんなにお金があるなら、先生を続ける必要もないのでは? どこか静かな場所でひっそり暮らすとかも選択肢としてはありそうな?」


【嫌じゃ嫌じゃ! 若い女子の生気を吸いたいのじゃ!】


 だいぶ最低な理由だったわ。

 まあそうか、バナコ先生も女性が好きな女性……。この学園にいるのは全員そうなんだよな。


「まああれですね。しばらくは一般寮でオレとバナコ先生だけってことになりますかね。変なことしないでくださいよ?」


 なんてな。

 人見知りで姿を見せないなら意識せずにバラバラに暮らすことになるのかな。


【安心するのじゃ。痛いのは最初だけじゃからの♡】


「そういう冗談はホントにやめてね⁉ 初めては好きな人とが良いんで!」


 女なら誰でも良いわけじゃないんだからね!


【無理やりなんてそんな無粋な真似はせぬよ。……ところで薬で寝ている時にいたすのは合意ということで問題ないのじゃろ?】


「問題あり過ぎてびっくりするわ! なんでそれをオレに訊いてきた⁉ 薬を盛ったらそれこそ犯罪ですからね⁉」


 教師が生徒に手を出すほうの問題と合わせて、世間で大ニュースになりますよ⁉

 恥ずかしがり屋じゃ済まされないくらい、ネット上でありとあらゆる個人情報がばらまかれまくりますからね!


【食事と寝床は別々。お風呂は一緒に入るのじゃ♡】


「はぁ……」


 風呂だけ下心が隠せていない! まあでも、正直言って体の洗いっことかしてみたいから、望むところだけど!


【食事は我が作るのじゃ♡】


「いいえ、それはオレが作ります……」


 薬を入れられたら困るからな……。


【寝床は別々じゃぞ?】


「ええ、それはまあ……」


 一緒に寝たら襲われるかもしれないし。


【夜這いの楽しみがあるじゃろ♡】


 わざわざそのために別々に……この先生、マジでヤバい人だ……。


【ガクくんが一般寮に入ると聞いてから、我も気合を入れていろいろ準備をしてきたのじゃ。住みやすい住環境を用意したつもりじゃが、不満があったら何でも言ってほしいのじゃ♡】


「それは……なんかわざわざありがとうございます?」


 寮って個人カスタマイズできる余地があるんだ?

 みんな一律同じ住環境なのでは……と思ったら、全裸寮は100人部屋だし、一般寮もアホみたいな造りになっている可能性があるのか……。


【さっそく2人きりの歓迎会に向かうのじゃ♡ 今夜のディナーはウーバーしておいたからの♡】


 そこはウーバーなんだ……。

 お金があるなら専用のシェフとか……まあ薬が入っていなければ良いけどね?



 と、まあ、終始弾むようなウキウキ声のバナコ先生(相変わらず姿は見えない)と会話しつつ、門限の18時ギリギリに一般寮に到着したわけだが……。


「なんじゃこれ……」


 寮じゃなくて城じゃん!


【古城は我の趣味じゃ。ドイツからウーバーでお取り寄せして移築しておいたのじゃ。気に入ったかえ?】


 ウーバーすげぇ。


「いや、その……ちょっと想像していなかったのでなんて言ったら良いか……」


 古城ってことは、マジの城じゃん……。それが学園の寮に……そんなことある⁉


【日本の城のほうが好みだったかえ?】


「そういうことではなくて……ですね……」


 ダメだ、バナコ先生の感覚にはついて行けそうにない……。


「ありがとうございます! とっても気に入りました! わーうれしいなー。一度はお城に住んでみたかったなー」


 かっこいいのは間違いないし、ここは素直に喜んでおこう!


【そうかそうか。喜んでもらえて良かったのじゃ♡】


 入口はあそこかな?

 小さな通用門を通って城の中へ。


【内装も凝っておるからの。驚くぞえ?】


「えー、そうなんですねー? このお城を見た時のインパクトを超えることがあ――なんじゃこりゃーーーーーーーー⁉」


 城の壁の至るところに、オレの写真が貼られている⁉

 100枚や200枚じゃきかない……。

 100メートルくらいに引き伸ばされた写真も……。えっ、学園の制服⁉ 今日撮られた写真もあるってこと⁉ 怖い怖い怖い!


【ガクくんかわいいのじゃ♡】


 超怖いーーーーー!

 ストーカーじゃん!


 えっ、待って!

 姿見えないし、マジで怖いー!


 でも外に出たら魑魅魍魎に体を乗っ取られちゃう⁉

 それも怖いー!


 オレ、どうしたら良いの⁉

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