希美が怪物の影を消し終えて、仲間と合流を果たしたとき、空はすでに茜色の色彩を帯びていた。
もっとも、その綺麗な夕映えも梅雨の雲に遮られて、切れ間から少しばかり顔を覗かせるのみだ。
移動には篤也の車を使い、朋子のみ愛用のスクーターに乗っていくことになった。
やや遅い時間帯だが、朱里はそのまま同行を申し出て、常識など無縁な篤也は二つ返事でオーケーした。
「久しいな、栗じゃが。元気にしていたか?」
「先生、授業でいつも会っていますよ」
朱里の答えを聞いて、篤也は訝しげな顔をする。
「いつもだと? まさか、お前はわたしのストーカーなのか?」
「い、いえ、そうじゃなくて……」
「北さん、そいつの言うことに、いちいち真面目に対応していたら身が持たないぞ」
希美が割って入ると、篤也は心外だと言わんばかりの顔する。
「雨夜の言う通りだ」
「顔とセリフが合ってない!」
ムダだと思いつつも、ついついツッコミを入れてしまう希美。
「とにかく車に乗れ。時間が惜しい。雨夜はトランクだ」
「なんでだ!?」
篤也の車は四人乗りなので、もちろんそんなところに潜り込む必要はない。
当然ながら無視して朱里とエイダに続いて車に乗り込んだ。しかし、2ドアなので必然的に助手席に座ることになってしまい、希美は顔をしかめる。
「さりげなく太股に手を伸ばしても怪しまれないな」
「怪しむどころか完全にアウトだ!」
噛みつくような顔で言ってやったが、篤也は顔色一つ変えずに平然と車をスタートさせた。意外に安全運転で交通ルールも遵守している。
「場所は分かるんですか?」
後部座席からエイダが問いかけた。
「雨夜、ダッシュボードから地図を出してくれ」
言われるままに地図を手に取った希美は、それを見て半眼になった。
「世界地図なんだけど?」
「ああ、それさえあれば世界中どこへでも行けるな」
「行けるかっ。だいたい目的地はこの町のどこかだ!」
癇癪を起こす希美。運転中でなければスネくらい蹴飛ばしたかも知れない。
「冗談だ。聖から、だいたいの場所は聞いている。目立つ建物だから、近くまで来ればすぐ判るとのことだ」
とことんマイペースの篤也。
曇り空のせいもあって外は薄暗かったが、篤也が言ったとおり教会はすぐに見つかった。
外観はよくある西洋教会のそれだが、屋根の上に立つシンボルは独特なものだ。
すぐ近くに空き地があり、そこに車を止めると、後からスクーターで来た朋子を加えた五人で教会に向かう。ちなみにコカトリスは朱里の腕の中でお休み中だ。
ハルメニウス教会は意外にも立派な建物だった。庭も広く全体的に小ぎれいで、夜の闇に白い壁が浮き出ているかのように見える。
篤也は品の良い装飾が施された木製の扉を無遠慮に開けて平然と中に入っていく。教会など初めての希美はなんとなく気後れしたが、他の面々は朱里を含めて意外と堂々としていた。
短い廊下を抜けると、すぐに礼拝堂が顔を出す。
祭壇の前に深天と、初めて見る美しい女が立っていた。年の頃は二十代前半か、見ようによっては大人びた女子高生にも見える。しかし、希美はその印象を否定した。
反射的に身構えると仲間たちに向けて囁く。
「あの女、魔術師だ」
魔術師ならば見た目の年齢などアテにならない。強い魔力を持つ者は、ただでさえ老化が遅いが、それ以前に魔術を使えば容姿などいくらでも変えられる。
しかし、その女は希美たちのことなど目に入っていないようだった。
感極まったように、わずかに潤んだ瞳で真っ直ぐに篤也を見つめている。
一方の篤也は眉一つ動かさず、黙り込んだまま女の顔を見つめ返していた。いつものような軽口も鳴りを潜めているが、それこそが彼の動揺を如実に物語っていたのかもしれない。
女は目尻の涙を指先でぬぐいながら、艶のある美しい声を響かせる。
「久しぶりね、篤也くん。いつ以来かしら?」
「
ようやく口を開いた篤也の横顔は、いつもの変人のものでなければ、希美の記憶に焼きついている暗殺者のものでもなかった。