地球防衛部の面々が去ると、礼拝堂には無機的な静寂だけが残った。
がらんとした空間を見上げて耀は深々と溜息を吐く。ひどく疲れた顔をしていた。
篤也のもとを去ってから二〇年。
その間、耀はずっと同じ研究を続けていた。
ようやく形になったのが一年前。この教会もその時に手に入れたものだ。
「篤也くん……」
想い人の名を無意識につぶやく。離れてから彼のことを忘れたことなど片時もなかった。
強くて、生真面目で、誰よりもやさしかった篤也が、ある日を境に心を閉じてしまったとき、耀は必死になって、それをこじ開けようとした。
しかし、彼が失ったものはあまりにも大きすぎた。
頑なになってしまった篤也にはどのような言葉も届かず、その行いを止めることさえできなかった。
彼を救いたい。
ずっとそればかり願って生きてきた。
ハルメニウス教団も、そのために設立したのだ。
しかし、ようやく再会を果たした篤也は、あの頃とはまた違っていた。
かつての心を取り戻し、冗談を口にしたり、女生徒をからかうような一面まで見せている。
「これならもう、わたしが何もしなくても……」
つぶやいたところで、内なる声が囁く。
今の篤也は幸せではない。
あれは無理をして笑っているだけだ。
癒えることのない傷を抱えたまま、虚勢を張って無理やり今を生きる。
それはきっと何よりも不幸なことだ。
「そうね……そのとおりだわ」
礼拝堂の高い天井を見上げると、耀は虚空に手を伸ばして見えない何かを握りしめるように手を閉じる。
「待っていて、篤也。あと少し……もう少しだから……」
耀の半生は篤也のためにあった。彼を救うために彷徨い、彼を救うために今も戦っている。
たとえ何を犠牲にしたとしても篤也に心からの笑顔を取り戻させる。そのためならこの命ですら惜しくはない。
それが朝日向耀の覚悟だった。