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第60話 第三の四天王

 小夜楢未来の隠れ家は、比較的普通の一軒家だ。標準的な邸宅よりは広いが豪邸というほどでもない。

 乗り込むのは地球防衛部に深天と槇村を加えた六人だ。耀と残りの信者は未来を逃がさないように、邸宅をまるごと覆い尽くす結界を張る手はずになっている。

 傍から見ればおかしな光景だが、今回は円卓の協力はなく人払いも行われていない。

 それでも結界は無色透明になるように工夫しているとのことなので、邸宅が爆発するなど、よほどのことがない限りは騒ぎにまでは発展しないだろう。

 もしなったとしても、即行でトンズラすればいい――というのが、いい加減な顧問の方針だ。

 呼び鈴は鳴らさず、エイダを先頭に突入する。

 玄関の鍵は開いており、扉を開けると真正面に二階へと続く階段があった。そこから黒いマントを羽織った数人の男が、無表情にこちらを見下ろしている。

 何故か全員がイケメンだ。


「人間!?」


 こういうケースを想定していないわけではなかったが、いざとなると、やはり躊躇する。なんと言っても朋子の得物は殺傷力抜群の長柄の金槌だ。これで人間を殴ると、どんなことになるのか、あまり考えたくはない。


「ゆけ、部長よ。奴らの顔面を陥没させるのだ!」


 それを見透かしたかのように篤也の無責任な指示が飛んだ。


「いや、死んじゃうでしょ」


 焦った顔で振り向くが、篤也は平然と告げてくる。


「構わん。連中は顔が気に入らん」

「嫉妬? 先生も負けてないと思うけど?」

「大丈夫だ、朋子先輩。あれはクロッド――魔術で作り出された人形だ」


 魔術に精通した希美が横から教えてくれた。


「確かに、生命力を感じんな。そういえば本物の未来も、あの手の魔物を大量に使役していたか」


 篤也の言葉を聞いて、エイダが不敵に笑う。


「ならば遠慮は無用ですね」


 彼女は聖剣を低く構えると、土足のまま床に飛び上がり、叫びつつ階段を駆け上がっていく。


「御用改めです!」

「新選組か……」


 エイダの叫びに希美がツッコミを入れたが、おそらく届いてはいないだろう。

 先頭のクロッドが素早く反応して手にした大ぶりのナイフをエイダに向けて突き出してきた。

 しかし、エイダは屋内では取り回しの難しいはずの長剣をコンパクトに振って、その腕を難なく斬り飛ばす。

 宙を舞った腕は下にいた朋子の足元に落ちてきて、思わず仰け反ったが、お陰でその断面がはっきりと見えた。血が噴き出すこともなく、例えるならば割れた石膏のようにツルツルだ。とうてい生物ではありえない。

 はっきりそうだと分かった以上、もはや躊躇いはない。朋子も武器を手に二階に向かって突撃した。

 その間、希美と篤也は一階の奥から飛び出してきたクロッドに対応している。

 一息に階段を駆け上がった朋子は廊下の敵はエイダに任せて、手近な扉を蹴破った。

 それを待ち構えていたかのように長身の男が出迎える。手脚は長くて筋肉質。髪を金色に染めてすべて逆立てている。


「よく来たな、地球防衛部」


 男は手にした武器を見せびらかすように構えて、好戦的な笑みを浮かべた。鉄の棒から伸びた鎖の先にトゲ付きの鉄球を備えた凶悪な武器だ。


(名前は確かモーニングスターだったはず)


 朋子は記憶から情報を引っぱり出したが、使い手を見るのは初めてのことだ。しかも、この人物はクロッドではなく人間に見える。


「俺はサヨナラ四天王のひとり、ザンク! ザンキやザンギのような小者とは格が違う! それを思い知るがいい!」


 高々と声をあげると、鉄球を回転させながら襲いかかってくる。

 相手が人間だという事実に躊躇いを覚えるが、あれで殴られたら、こちらこそお陀仏だ。

 朋子は覚悟を決めてハンマーを構える。地球防衛部の敵は必ずしも怪物だけではない。時には超常の力を悪用する人間が相手のこともあった。

 もちろん気は進まないが、相手が人間だからといって、決して戦えないわけではない。


「喰らえぇぇぇ!」


 雄叫びとともに武器を振りかぶるザンク。

 しかし、次の瞬間、その回転する鉄球が打ち据えたのは彼自身の後頭部だった。


「ぎょがっ……」


 少しヤバげな声を残してザンクが前のめりに突っ伏す。

 モーニングスターは扱いの難しい武器なので素人が不用意に振り回せば、まあこんなトラブルも起きる。


「おーい?」


 ハンマーを構えたまま朋子が呼びかけると、ザンクを名乗った男は、なんとか顔を上げた。そのまま視線だけを朋子に向けて最後の力を振り絞るかのように口を開く。


「み、見事だ、地球防衛部……だが、最後の四天王は俺たちの中で……さ、最強の存在。役満だって上がったことのある男だ……。こ、心しておくがいい」


 頑張って言い切ると、再び床に突っ伏してしまった。

 残念ながら朋子には分からなかったが、ザンクも役満も麻雀用語だ。


「なんだかなぁ……」


 拍子抜けした朋子だが戦いが終わったわけではない。部屋に何もないことを確認すると、次なる敵を求めて廊下に駆け戻っていった。

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